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「紗絵に贈る本選びとか。まあ、いいけど」
時間は十八時過ぎ。
講義を終え、今日の勉強を終えた碧斗を玉川と葛西が送り届けたが、律子は居残っていた。
もちろん、千尋の言う『条件』をクリアするためだ。
訪れたのは大学に近い古書店だ。年老いた爺さんが、ひとりでこっくりこっくり居眠りをしながら店番をしている。
「なんで紗絵みたいなお嬢に贈るのが古書? ティーン向けのファッション誌でも買いなさいよ」
「紗絵ちゃん、碧斗さんが第二外国語韓国語とってるって言うから、高校生のうちに韓国語に流暢になっておきたいんだって。新品を取り扱う本屋でも外国語の参考書くらい立ち読みできる店もあるけど、俺、けっこう古書店の雰囲気とか好きだから」
「あー、千尋がまったく紗絵に相手にされない理由がわかったわ。実の兄妹とかいうこと以前にね。あの子、他の誰が触ったかわからない本とか嫌いよ」
「えーー」
千尋はぶつぶつ愚痴った。
「それを早く言ってくれなきゃ困るよ」
「あと、語学は独学で参考書を買うくらいでは習得が難しいわ。あの子の場合、英語でも怪しいでしょう。普通に、語学学校に通わせるのね」
「ふ、まったく律子はわかっていないな。紗絵ちゃんはアホの子で、みんなが手をさしのべられずにはいられないところが魅力的なんだ」
「その『みんな』の中にあたしが入っていないことは確かね!」
「ほんと、律子はわかってない。俺の紗絵ちゃんは」
なんというつもりなのか、聞く機会は失われた。
「爺ちゃん、俺、このライトノベル買う」
そう言って本棚を挟んだ向こうで、やんちゃな子供が駆けてきたのだ。
「あっ」
子供が古い棚に全力で当たり、その棚がこちらに倒れこんできたのだ。
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