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役員会議
役員会議が始まった。
8月の各支店の売上高について先に語られ(昨年比6%増、目標額には届かなかった)、いよいよ本題に入ることになった。
「9月期末までの売り上げはそうとうダウンしそうですな。なんせ御大が逮捕されたのですから」
「逮捕された会長の時盛翁は、社長の実父。その息子もふらふら企業を行ったりきたりしているし、一柳一家は信用がおけません」
「ここは職を辞するという英断をすべきでは」
そんなやり玉あげの言葉で、各支店長が声をあげた。
「本郷専務は、社長とは微妙な関係だし、本郷専務を社長にしては」
「いや、本郷専務のご子息が起こした事故は許しがたい。本郷専務こそ、平からやり直してみては」
ここで、譲らない女、藤風常務が声をあげた。
「私を次期社長にと押す人たちもいるようですが、私は社長になる気はありません」
「なぜです。あなたしか考えられないのだ」
「私も藤風常務が社長になるというのは反対です。今の社長が社長を続行するのがいいかと」
こういう声があったのだ。
「なぜ、あなたが言う。横須賀支店長」
「ご息女の実李さんが、クルーズ事故に巻き込まれ、死亡するところだったんですよ? 普通は、本郷専務とそのご子息を恨むところでしょう」
「だからです。本郷専務の立派な謝罪と忍耐を、そばで見てきましたが、本郷専務はとても人ができている。ちなみに、長女はもう千尋さんを振ってしまったようで」
どっと笑いが起き、千尋は苦行に耐える僧侶の顔をして耐えた。
それから千尋は澄んだ目をして言った。
「ひとり。私のクルーズ船に参加した女性のうち、ひとりが貴い命を散らしました。彼女のご両親に会いにいき、仏壇に手をあわせ、共にその死を悼んでいます。私は、絶対に彼女を忘れる日はこないでしょう」
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