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役員会議が始まる十数分前。
「横須賀支店長の義助さん。お久しぶりです」
「ああ、碧斗さん」
義助横須賀支店長は喫煙ルームにいた。吸っていた煙草をきゅっと灰皿に押し付けた。
「碧斗さんは新しく社長になるのですよね」
「はは、問題を起こした祖父の押し付けなので、無理そうですね。祖父は檻の中だ。僕では求心力がない」
「はは」
「はは」
と本題に入る前の軽い世間話。
「ところで聞いたのですが」
碧斗は本題に踏みこんだ。
「ご息女の実李さんが、うちの使用人の鈴城と交際をはじめたそうで」
「……」
横須賀支店長は、気だるげにため息をついた。
★ ★ ★
そして数時間後の一柳の使用人寮。電話に気づき、葛西が携帯をとった。
「社長と碧斗さんたちが帰ってきました」
皆が震撼して葛西の知らせを聞いた。
首へのカウントダウンが始まったのだ。
社長と碧斗と本郷専務と千尋が戻ってきた。
「どうだったんですか」
「俺らは首ですか」
使用人たちが詰め寄る。
碧斗は、手を挙げた。
紅白社長も行く前とはうってかわって、意気揚々とした顔だ。
本郷専務と千尋もにやっとした。
碧斗の挙げられた手が、Vサインを作った。
「紅白社長、会長へ繰り上げ、本郷千尋さん、社長就任! 使用人の皆さんも雇用続投!」
紅白社長、首にはならなかった? それどころか会長に?
千尋さんが新しい社長?
何より、自分たちも雇用されたまま?
使用人たちにもじわじわと状況がわかってきた。
そして喜びで、わっと皆が沸いた。
ーーどうやらこんな成り行きだったらしい。
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