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それを聞いて、おお、と各支店長の中に、千尋の言い分に感心したように言うものもいた。
「全部その女が爆弾を持ち込んだせいなのに」
「重からず、軽すぎず、責任感が強く、見た目も爽やか。『神輿』にするにはうってつけですな」
小汚い言葉を言う支店長もいた。
「本郷千尋さんには未来がある」
紅白社長が言った。
「重からず、軽すぎず、見た目も爽やか」
紅白社長はさっき言われたばかりのことを言った。
『神輿』と言った支店長を見る。
「彼には未来がある。将来の一柳を背負って立つ未来だ」
「何を、無能社長が」
「いや、その通りだ」
「そうだ、紅白社長の言う通りだ」
紅白社長に賛成する声が非難する声よりやや多いと言ったところだった。
「本郷専務。今意思表示をするべきでは。ご子息がここまでおっしゃっておられるのです。本郷専務の出番なのでは」
本郷専務は本店長の声に軽くうなずいたが、こう言うだけだった。
「私にはそれほど欲がない。実力もない。息子と私が一柳の中でこれからもがんばっていければそれでいい。役職など返してもいいでしょう」
「……」
「……」
本郷専務に心酔する本店長が、がっかりしたように言った。
「え、それだけですか?」
「それだけです」
本店長は本郷専務に期待しすぎたという顔になった。
ここで、碧斗が声をあげた。
「僕の父である社長は、本郷専務に負けずに懸命に火消しにとりかかりました。社長は父親運と息子運がないだけ。今こそ社長を一丸となって守り、伝統の一柳を守るべきでは」
ふ、と若造の言うことに失笑する支店長もいた。
「これは、僕が完全な部外者だから言えることですが。あ、なんで部外者の僕がここにいるんだろ」
失笑していた支店長たちはぽかんとしたあと、笑いをこらえるように口もとに手をやった。今度は感じの良い笑いだ。
「碧斗さんは永久に、社長の座につかないおつもりか」
「その通りです。僕ではなく、これまで社員を引っ張ってきた社長の好意に好意を返してほしい。これだけが僕の望みです」
「あっけらかんと言われるのですね、碧斗さん。何か、顔つきがかわったような。いい風に」
藤風常務が言った。
「碧斗に期待をするのはもうやめましょう、皆さん。あなたもです、藤風常務」
紅白社長が言うと、藤風常務はとても重いため息をついた。
「紅白社長と藤風常務は相変わらず仲が悪い」
そうぼそぼそ言う支店長もいた。
藤風常務は言った。
「まあ、もう押す声はないでしょうがーー私が社長となったあかつきには、盛大なリストラを行います。まずは一柳邸の使用人のリストラから始めましょうか」
支店長たちは青ざめた。
一柳の使用人は、一柳の従業員家族のうち、行くべきところがなくなった人たちがなる職なのだ。
「リストラ」
「だめだ、だめだ、藤風常務」
息子や娘を使用人として預けている支店長たちはそう言った。
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