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誕生日パーティー
当日。
「あたしの靴どこー? ねえ、里美知らない?」
「ええい動くな。今メイクしてるんだから」
メイドの里美にメイクをしてもらっている律子だったが、乱暴にぐいと頭を定位置に直された。
「いい? 今回はばっちりメイクするからね。お嬢なんかに負けんなァー」
長い黒髪を複雑に三つ編みに結い上げた童顔の美少女・後藤里美は、なにか紗絵に含むものでもあるのか、妙に燃えている里美だった。
「このおっぱいで碧斗さんを悩殺するのよ!」
「いや、そういうの見てないでメイクに集中して!」
いい子なのだ。……たとえ気が荒そうに見えても。
里美は律子の恋の相談に乗ってくれているし、女性同士のお出かけにいくとき、「ごめん、碧斗さんが出かけるから、なしになった」と言っても気を悪くすることなく、律子の仕事を優先してくれる。
玉川がメイクの途中で使用人部屋に戻ってきてこう言った。
「あらま。今日りっちゃんを千尋さんがエスコートするって本当?」
「本当です」
「えー、千尋さん結構狙ってたのにがっかりー。憎たらしいわね、この顔」
と言いながら、耳をひっぱった。
「ひひゃい」
律子と玉川がじゃれていると、里美が玉川にふしゃーと野生の猫のごとく警戒した。
「今メイクの途中なので」
「いいじゃない、さとみん」
「その誰でもあだ名つかうくせ、やめてもらえます?」
「なんであんたたち、そんなに仲悪いのよ……」
あまりこのふたりは相性がよくない。というか、里美をからかいたい玉川とかまわれてうざい里美だから、相性がよくない。
「た、玉川さん……」
おずおずと律子は尋ねた。
「今日は碧斗さんと紗絵を会場まで送るんですよね」
「ええ、そうよ」
「紗絵がふたりで、パーティー終わったあとに、その……どこか。ホテル的……なとことか……寄りたいとか……言ってですねえ」
いけない、言葉がしどろもどろになってきた。
「いや、ないから大丈夫だから」
玉川は生暖かい目でそう言い、律子を安心させた。
とりあえずは大丈夫だったが、女性の使用人の中では、律子の碧斗への想いはあからさまになっているらしい。
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