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「おい、律子。迎えにきたぞ」
千尋が寮の前で、軽い調子で迎えにきた。
(ほ、良かった。普通の対応だ)
律子は考えた。
(ハプニングで張り手くらわされた女とか、見るのも嫌よね、て思うけど、千尋がいやなことは忘れる性格でよかった)
律子は考えて手を振った。
「千尋。時間通りね」
ぴょんと飛び上る調子で立ち上がった。
「メイク終わった?」
「終わった」
言うなり、靴を履いて出かけたのだった。
助手席へエスコートする千尋は、ぼそっと言った。
「下からの眺め、すごくエロかったし啼(な)く声もよかった」
「え?」
律子はばっちり聞いていた。
意味することは明白だった。
「この変態!」
毒づくと、にかっと千尋は笑った。
「何か言った?」
(どこまでが本音よ……)
もう、自分の部屋へ帰って寝たかった。
千尋はシスコン兄のくせに、たらしすぎる。
千尋のくせに。
「どこに車停めたらいいのかなあ」
「あー、どこもいっぱい」
セダンでぐるぐると回り、ようやく空き場を見つけて停められた。
「じゃあ行こうか、美人の従妹殿」
「かっこつけちゃって」
くいと差し出された腕をつかみ、千尋と律子は、その一歩を踏み出したのだった。
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