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出席者名簿にサインをして、いざパーティー会場へ。
「……あ」
「あ」
踏み出した一歩を、その場で踏み固めることになってしまった。
会場の出入り口付近で、碧斗と紗絵が顔を寄せ合っているのを見たからだ。
ふたりはくすくす笑いあっており、美男美女であり、どこから見てもお似合いだった。
「……っ」
わかっていても、やはり傷つく。碧斗の一番は紗絵で、律子はボディガードでしかないのだと。
「やあ、僕の誕生日パーティーへようこそ」
碧斗は何の含みもなく言った。
「お、お招きいただきまして、ありがとうございます」
「いいんだよ、来てくれて嬉しい」
碧斗は、それだけ言って、紗絵に向き直り、何かこそこそ話している。
(え? それだけ?)
だって自分はこれ以上ないほど飾りたてていって、そして純情なところのある碧斗は、見惚れるまではいかないけれど、何かリアクションを起こしてもいいと思うのに……。
(碧斗さんは、あたしのことどうでもいいのかな)
あまりに気のない言葉に、以上のことをつらつら考えた。
「キャハハッ、乳牛も来てたんだ、パーティーに」
紗絵は一歩踏み込んで嘲笑った。下からなのに見下す視線。
「恥かくだけなのに、お兄様にエスコートなんて頼んで厚かましすぎない? 言っとくけど、あんたなんて、壁の花なんだからね。お兄様だって結構モテるんだからね」
「紗絵ちゃん、俺は紗絵ちゃん一筋だってば……」
褒められたのになぜか盛大に嘆く千尋。その醜態っぷりで冷静になれる自分に気付く。
「……別に、あんたに褒められたくないからいい」
突き刺さるような視線を紗絵にやる律子。ふたりの女の間には、目には見えない火花が散っているようだった。
「紗絵ちゃんを侮辱するな」
千尋が速攻で立ち直って言う。
「……うざいぞ。そういうところ」
(悪かったわね、うざくて)
律子の内心を知らず、千尋ははあとため息をついた。
「早く会場入りしなくちゃいけない。さあ律子、父さんに挨拶しに行くぞ」
「ちょっと待って。まだあたしは、紗絵に言いたいこと……」
「紗絵ちゃんにかなうと思ったら大間違いだからな。分をわきまえろと言ったはずだ」
(わかってる。千尋はずっと紗絵の味方よ)
でも、最近は普通の親戚付き合いができそうだと勘違いするほど、仲がいいので忘れていたのだ。
もう十分、これで傷ついていたのに。
「本郷さん、ゆっくりしていって」
とどめの一言は、碧斗からくらった。
『本郷さん』とか。
(傷つくな、あたし)
波乱含みのパーティーになりそうだった。そして律子は、いざ、会場入りを果たしたのだった。
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