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「あ、父さんだ」
「うん」
千尋に言われて、歩いていった。
「これは……」
近づくにつれ、伯父の本郷専務が息を飲むのを感じた。
「ま、まあ、あれだ。人の目に無様にうつらんようにうまく擬態したな」
「擬態したって、父さん」
千尋はため息をついた。
「……」
本郷夫人は無言のまま、凍り付く視線でさっと律子の全身を見渡した。
「……っ」
傷ついてはいけないのだ。律子は碧斗のボディーガードでしかないのだから。
何度も心の中で繰り返す。
律子は碧斗のボディーガードでしかない。
(さて、と)
律子は護衛の習性で、重要人物が部屋のどこにいるか、冷静に調べた。
(伯父様は中央近くか。左隅に、御大。あ、今御大のところに碧斗さんのお父さんが駆け寄っていった。碧斗さんのお母さんは市橋建設の社長夫人と談笑してる……久酒専務は藤風常務と話してる)
「あ、りっちゃん先輩だ~~! めっちゃ美人! やほー、見てます、俺です葛西で」
「うるさい黙れ!」
葛西と鈴城コンビが、部屋の西隅を固め、他の顔を見知っている護衛が二人、南側を固めていた。
千尋は軽くため息をついた。
「葛西……だったか。あいつと話すほうがいいんじゃないか」
「今日はパーティーの客だから話さない」
「でも、あっちから来てるけど」
千尋の言葉は本当だった。
「りっちゃん先輩!」
葛西が手を振りながら走ってきた。
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