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あまりといえば、あまりにも残酷な宣言だった。
優雅かつ素早い動きで碧斗は、檀上を下りた。
「碧斗を止めよ!」
時盛翁の命令で、鈴城たちが動いた。
「碧斗さん……ッ!」
護衛は優秀ぞろいだった。
碧斗を窓際に追い詰めたからだ。
「碧斗さん、あなたは今、理性を失っているんです。早く頭を冷やしてください」
鈴城は懇願して言うが、碧斗は止まらない。
「跡取りって僕じゃなくてもいいでしょ?」
あきらめの表情を浮かべた。少し、自分に自信がない恥ずかしがりの男の顔で。
(ああ、そうだったんだ)
律子は考えた。
(あたしは、この人のこういうところに惹かれたんだ)
考えるのはやめて行動あるのみ。
ダッシュして駆け寄ろうとした。しかし。
「いったあ」
慣れないヒールで転んでしまった。
ぶざまな律子を、哀惜とも嘲笑ともとれぬ表情で碧斗は見下した。
「きれいだよ、僕のりっちゃん」
(それってとんでもない皮肉)
ドレスをまとった自分は、悔しいほど力不足で、そんな律子を碧斗は闇色の目で完全に見下していた。マーメイドドレスを女性の護衛に着せた理由は、護衛の戦力を削ぐためだとやっと気づいた。
――バババババ……
ヘリのホバリング音が鳴った。
碧斗は窓へよじ登った。
「碧斗さんを止めろ。幸い、ここは四階だ。絶対に逃げられない」
鈴城は逃げられないように碧斗をとめようとした。
しかし、碧斗の方が一枚上手だった。ヘリから降ろされた梯子に乗る。
「ばいばい、りっちゃん」
それが最後の言葉だった。
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