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ヘリは遠ざかった。
倒れた自分がみじめだった。少しでも碧斗を止める役にたてなかった律子はみじめだった。
だから。
「あ……」
律子は涙がつーと頬を伝うのを感じ、止めようと思っても止まらず、最終的に慟哭した。
「ああ……っ、うぇ、うええん」
りっちゃん先輩、と葛西の呼ぶ声も無視して、ただ泣き続けた。
「碧斗さんが、碧斗さんが……! 私の紗絵ちゃんの縁談が破談に……!」
泡をふいて本郷夫人は倒れて、本郷専務に抱えられていた。
「加州(かしゅう)! お前は碧斗さんの学友をしていながら、碧斗さんが一柳の名に泥を塗る真似を許したのか」
「違うんだよ、父さん。俺も本当に知らなかった」
久酒専務親子が言い争いをしていた。
人の退いていく気配が起こり、あたりは完全に静寂になったときになって、ようやく泣くのをやめた。
「りっちゃん先輩」
そこには葛西が寄り添っていた。
「俺、深夜に碧斗さんと出ていっていたでしょう。もう言いますね」
「ゲーム会社に行ってたの……?」
「そうっす、でも、ゲームを作りにいくとか一度も言わなかった。あそこに時盛翁の隠し子がいるから、身内として一柳の中に入れるように説得しているって。今思うに、うまい嘘でしたね」
そこにはまだ二人いた。
「碧斗さんが、碧斗さんが……っ」
「大丈夫だよ、紗絵ちゃん。僕がついてるから」
「碧斗さん……っ」
千尋と紗絵の兄妹が抱きしめあっていた。
(今なら紗絵と仲良くなれる。あたしたち、同じ痛みを分かち合える)
皮肉なことに、二人で取り合いをしていた碧斗がいなくなってから、紗絵と仲たがいをやめられる気がしたのだ。
「紗絵」
「律子っ」
ヒールを脱いだ律子は紗絵に近づいた。おずおずと律子は紗絵に手を伸ばす。
「紗絵」
「律子」
ふたりは抱きしめあって嗚咽した。
そんな二人の背中を千尋がぽんぽん叩いた。
(さよなら、碧斗さん)
開け放たれた窓の向こう、深夜のイルミネーションが輝いていた。
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