2年後

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2年後

 それから二年。  本郷律子は、楔(くさび)を打ち込み、岩を上っていた。 「やめろ、お嬢様は関係ない」 「いやあ、助けて」  三人の男女が海の見える崖で言い争っている。 「うるせえ」  こう言い、お嬢様と呼ばれた女性を羽交い絞めにしているのはひげ面の男。 「おたくの本郷専務呼んでこいよ。この女を殺されたくなかったら。俺は、あいつに面接で落されたんだ」 「お嬢様には関係ない」  じりじりと若い男――葛西――は悪漢との距離を縮め、腰に差してある木製の小太刀をいつでも使えるようにしている。 「お嬢様を放せ」 「美人だよなあ。それに色も抜けるように白い。さぞや……」  そうひげ面の男は、お嬢様の耳を舌で舐めた。 「いやっ、いやあ……」 「お嬢様」  ひげ面の男は、スカートの裾を両手で持つと、裾をめくった。 「……あ、いや……」  まぶしい白の下着が目に映る。どれほどこのお嬢様が屈辱をうけているか、この男は知らない。 「毎晩男と寝てるんだろ? おっさんにも楽しませろよ」 「いや。いやーー」  恥ずかしさのあまり悶死するのではないかと疑う勢いで、お嬢様は叫んだ。  本郷律子は楔を岩壁に打ち込み、ひたすら上っている。  そして、ようやくてっぺんにたどり着くと、カラビナを取り出して崖に立っている鉄製の手すりにつけると、カラビナから繋がっている紐をぐ、ぐ、とひっぱると、ひらりと断崖から姿を現した。  その前には、『お嬢様』と悪漢の背中。  葛西がふたりの背中の奥に律子を目にして、こく、とうなずいた。 「助けて、――律子」  お嬢様は叫んだ。
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