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「あんたの兄貴からよ」
紗絵にスマホを見せると、ぷ、と笑った。
「お兄様ってあたし一筋だから……」
「そんな感じなのよね……」
三か月前、『結婚なんて考えられません。俺と紗絵ちゃんはお互いずっと独身で兄妹仲良く暮らすんです』と千尋がみんなをおおいにひかせた発言は今もなまなましい。
千尋は、大学を卒業して、一柳の次期後継者として仕事の経験を積んでいる。
「一柳社長夫妻に子供を望むのは年齢的にもう無理だし、本郷家のあんたの肩にかかっているのよ、紗絵。あんたが跡取り娘なの」
「うーん、でも、いい人がいなくて」
「まあ、大学在学中に、いい人を見つけるのね」
「でも……」
紗絵がためらうのもわかる。
「へき」
「言わないで、律子」
紗絵は鋭く言葉を遮った。
(あたし、配慮がなかったわ。傷ついているのは紗絵も同じなのに)
そう悶々している律子に、紗絵は微笑んだ。
「三か月前に天国へ行ってしまったお母様に恥じないように、ちゃんとがんばらないとね。恋も勉強も」
「……そうね」
千尋と紗絵の母は、碧斗が一柳を去ってから病がちで寝込んでいたのだが、つい三か月前にとうとう帰らぬ人になってしまった。
「……そうね」
律子は繰り返し、紗絵の肩をぽんぽんと叩いた。
「いつまで女の子同士でいちゃいちゃしてるんですか?」
あきれかえった葛西に、「別にいちゃいちゃなんてしてないわよ」と二人で声をそろえて言う。
「じゃあ、行きましょうか」
「そうするわ」
三人は教室へ戻っていった。
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