お嬢様のSP

2/4

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「あんたの兄貴からよ」  紗絵にスマホを見せると、ぷ、と笑った。 「お兄様ってあたし一筋だから……」 「そんな感じなのよね……」  三か月前、『結婚なんて考えられません。俺と紗絵ちゃんはお互いずっと独身で兄妹仲良く暮らすんです』と千尋がみんなをおおいにひかせた発言は今もなまなましい。  千尋は、大学を卒業して、一柳の次期後継者として仕事の経験を積んでいる。 「一柳社長夫妻に子供を望むのは年齢的にもう無理だし、本郷家のあんたの肩にかかっているのよ、紗絵。あんたが跡取り娘なの」 「うーん、でも、いい人がいなくて」 「まあ、大学在学中に、いい人を見つけるのね」 「でも……」  紗絵がためらうのもわかる。 「へき」 「言わないで、律子」  紗絵は鋭く言葉を遮った。 (あたし、配慮がなかったわ。傷ついているのは紗絵も同じなのに)  そう悶々している律子に、紗絵は微笑んだ。 「三か月前に天国へ行ってしまったお母様に恥じないように、ちゃんとがんばらないとね。恋も勉強も」 「……そうね」  千尋と紗絵の母は、碧斗が一柳を去ってから病がちで寝込んでいたのだが、つい三か月前にとうとう帰らぬ人になってしまった。 「……そうね」  律子は繰り返し、紗絵の肩をぽんぽんと叩いた。 「いつまで女の子同士でいちゃいちゃしてるんですか?」  あきれかえった葛西に、「別にいちゃいちゃなんてしてないわよ」と二人で声をそろえて言う。 「じゃあ、行きましょうか」 「そうするわ」    三人は教室へ戻っていった。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加