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講義が終わってパソコンをしまった紗絵を見て、律子は「ちょっとトイレ」と歩いていった。
トイレに行って手をハンカチでふきつつ帰ってくると、紗絵がトラブルに巻き込まれていた。
「ねえねえ本郷さん、一緒に今日デートしようよ」
色白で細身で、淡い茶髪に、大きな茶色の瞳。瞳を彩る淡いまつ毛。その繊細そうな美青年が紗絵に絡んでいる。
「あのう。困ります」
「俺とデートしようよ」
「でも、知らない人だし」
律子は見つめた。
(知らない人じゃないでしょ)
律子は内心つっこんだ。
久酒加州(ひさざけ・かしゅう)――来年の春に一柳に入ることが決まっている、以前碧斗とつるんでいた学生だ。二年前は大学二年生だったが、今は大学四年生として経済学を学んでいる。
繊細そうな色白で細くて目が大きい美青年である。
(でも、紗絵のピンチにはかわりないわ)
「お嬢様に――」
息を吸い込んで、言おうとしたのだが。律子が言う前に、葛西が笑っていない目で背後から久酒を羽交い絞めにした。
「お嬢様に何か御用ですか?」
葛西が耳元でささやき、そのまま、ふ、と息を久酒の耳に吹きかけた。
「あ、あわわわ」
律子が、なにかすさまじくヤバい光景を見ているのではという目で絡み合うふたりを見た。久酒は怖気づいていた。
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