12人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
「……放せよっ」
その白皙の美貌をわずかに紅潮させえて、久酒は葛西の手を振りほどいた。さらに、律子も後ろから葛西の援護にかかる。
「困ります、経済学部生の久酒加州さん」
こちらはお前のデータ握っているんだぞと闇にほのめかしている。なにしろ、碧斗の学友だった青年だ。
「いや、なんでもないから」と言って、へこへこして去っていった。
「大丈夫でしたか? お嬢様」
葛西が頭を低くしてこう言うが、ぽろぽろ涙を目に蓄える紗絵が救いを求めるのは律子だ。
「律子おー」
「紗絵」
紗絵がえぐえぐ涙を流したので、律子はおろおろした。かまわず紗絵は律子に抱き着いた。
「お。俺。かっこよく守ったのに……」
葛西は固まった。
まあ、紗絵がこうして懐いてくれるのは嬉しい。だが、久酒のことは要注意だ。このことは本郷専務に報告しなくてはいけない。
(あと葛西)
律子は考えた。自分がなかなかなびかないせいで、葛西の性欲がとんでもない方向へいくのでは……と考えたが、このことは、本郷専務には教えないほうがいいだろうと心に決めた。
最初のコメントを投稿しよう!