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「あ、いや、すまん」
本郷専務はあわあわと謝った。
「律子も碧斗さんのことが好きだったな」
「大丈夫です。紗絵のほうがずっと辛い立場にいると知ってますから」
自分はちゃんと笑顔を作れているだろうか。
ほ、と本郷専務が、慈愛の目で律子を見た。
「ま、まあーーこんなとき、妻が生きてくれたら紗絵にもっと気を配れと言ってくれたのだが。男親ひとりというのは頼りにならないものだな」
「伯母様は、父としても夫としても会社員としても優秀な本郷専務にめろめろでしたし、生きていたら、ちゃんと親としての責務を果たしているから大丈夫と言うんじゃないでしょうか」
「そうだな」
妻を失ってぐずぐずしていたい男の顔をしていたのも、そこまでだった。
「しかし、加州くんが紗絵にアクションを起こしたのは今日が初めてなんだな」
「そ……そうです」
「それにしても私の息子と娘ときたら、本当にトラブルメーカーだな。千尋、千尋もお見合いを断ってきた。いいうちのお嬢さんなのに」
「ああーー」
律子は今日ラインを送ってきた千尋を脳内に浮かべた。
「臼杵(うすきね)さんには二重の意味で謝らねばならん」
「臼杵――って」
律子はためらったあと言った。
「千尋の護衛の臼杵ですよね?」
新人のクソ生意気な少年である。千尋の護衛を鈴城とバディを組んで受け持っている。葛西などは、いいのは顔だけ、ちびでがりがりと言っている。得意とする得物は手錠だ。
「臼杵くんは、新宿支店長の臼杵さんの息子だ。千尋が断ったお嬢さんは臼杵くんの姉だ」
「は?」
律子は固まった。
「あ、ふふっ」
律子は笑いの琴線にふれてしまい、くすくす笑った。
「うそー、あいつ超坊ちゃんじゃん。今度坊ちゃんと言ってからかってやろう」
「やめなさい、みっともない真似は」
本郷専務はため息をついた。
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