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(え……?)
律子はその姿をみつけた。
(おかしいわよ。一柳の会社後継権を捨てて、東京へ行ったんじゃなかったの? 碧斗さんは東京のゲーム会社に勤めてるんだから。名前は『ガールズセレクト』)
律子たちのいる県と、紗絵の通う大学の所在地は一応関東圏に入っている県なのだが、東京というと遠いイメージがある。自分からはHPに載っていた住所を便りに会社に行かなかった。
行けるはずがない。
律子は紗絵とともに捨てられたのだから。
(どうしてかしら)
律子は硬直しきった頭で考えた。
(どうして、碧斗さんはあんなに頭がよかったのに、県内の国公立大学に通ってたのかしら。頭がよろしくない紗絵と一年間だけキャンパスライフを楽しむため?)
これは、律子が想像できないことだった。
(ううん、今は碧斗さんの大学のことは関係ないわ)
「へきと、さ――」
口の中で、言葉をぱくぱくさせた。うまく、息ができない。まばたきってどうやってするんだっけ。
彼が『律子』を、『見た』。
――碧斗さん。
ただ、恋焦がれてやまない人。
「お待たせー」
その直後に脳天気な里美が後ろから声をかけた。
「あ、里美」
律子は俊敏な動きで振り返った。
「どうしたの? 何があったの? 怖い顔」
「あ、なんでもなくてね」
振り返ると、碧斗の姿はどこにもなかった。
ただ、苦しかった。
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