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――この店がいいの。
――おいしそう。律子、何にする?
――このパフェとかすごく映えそう。
もう限界だった。
「ごめん、里美。あたし、急用思い出した。ちょっと帰るね」
里美がカフェでうんうんうなってるときに言いだした。里美でなかったらものすごく嫌がられる女子の友だちの行動だ。
「あ、うん」
里美は動じることなく、こう言った。
「お化け見たみたいな顔してるよ。碧斗さんでもいた?」
「あ、うん」
里美にはなぜわかったのだろうか。律子はそんなにわかりやすいだろうか。
「追いかけるの? やめたほうがいいよお」
「ごめん、あたし」
「ああ、泣くの禁止ね」
鼻ちーんして、と紙ナプキンで鼻をちんさせて、里美は謎めいた声でこう言った。
「行ってらっしゃい。ライバル女子に会わないといいね」
「碧斗さん」
さっきの靴屋まで走った。
「碧斗さん」
車が車道で行きかうところ、碧斗の姿を探した。
「碧斗さん」
どこにもいない。
だって当然だ。律子に探されても迷惑だろう。
(はあ。もう帰るしかないか。里美には埋め合わせで、里美の好きなういろうとか買って帰ろう)
そうぐるぐる悩む律子の背後から手が伸びた。
「さて、誰でしょう」
手は律子の目をふさいだ。
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