遭遇

4/7

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
――さては暴漢!  と思ってばっと背後の男の脛を蹴ってしまってから、気づいた。 「いたああああああ!」 「あ、」  あまりといえばあまりの二度目の遭遇だ。 「碧斗さんっ!」 「そうだよ、僕だよ! りっちゃんさあ、酷すぎない?」  もんどりうって膝を手に抱えて転んでいる。 「痛いよお。骨折れてたらどうしよう」  そういたたと言いながら転がっている。  律子はなんと言おうと考えていたが、いい言葉が浮かんでこない。 「お、痴話げんかカップルの面白動画」  まわりの人々がスマホをかまえている。自分がSNSで全国へ拡散される図を想像してぞっとなった。 「碧斗さん、立ち上がれそうですか?」 「うん、なんとか痛みひいてきた」 「どこか休めるところに行きましょう」 「や、休める、ところ」  碧斗はごくり、とつばを飲んだ。  ミニスカートから伸びる健康的なふともものあたりや、シャツの襟から見える谷間をじろじろ見られているのがわかった。 「碧斗さん!」  律子は羞恥のあまり、怒鳴ってしまった。そんなーー女を見る目で見られても。 「ごめんね。そういう意味じゃないから」 「わかってます」  律子の言葉に、碧斗の目の奥の光が揺れた。  二年前。碧斗が去る前、律子は幼過ぎて、わからなかった。葛藤がなかったはずがないのだ。そう考えると、優しくする気分になってきた。 「お仕事は順調ですか? 一人暮らしで困ったこともおありでしょう」 「うん、まあ、最初のほうは、いろいろ大変だったけど、まわりの人がよくしてくれたから。仕事は順調だよ」  碧斗はもごもごこう言った。 「足を休めるところを探しましょう。それでいいですね」  律子は言い切った。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加