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――さては暴漢!
と思ってばっと背後の男の脛を蹴ってしまってから、気づいた。
「いたああああああ!」
「あ、」
あまりといえばあまりの二度目の遭遇だ。
「碧斗さんっ!」
「そうだよ、僕だよ! りっちゃんさあ、酷すぎない?」
もんどりうって膝を手に抱えて転んでいる。
「痛いよお。骨折れてたらどうしよう」
そういたたと言いながら転がっている。
律子はなんと言おうと考えていたが、いい言葉が浮かんでこない。
「お、痴話げんかカップルの面白動画」
まわりの人々がスマホをかまえている。自分がSNSで全国へ拡散される図を想像してぞっとなった。
「碧斗さん、立ち上がれそうですか?」
「うん、なんとか痛みひいてきた」
「どこか休めるところに行きましょう」
「や、休める、ところ」
碧斗はごくり、とつばを飲んだ。
ミニスカートから伸びる健康的なふともものあたりや、シャツの襟から見える谷間をじろじろ見られているのがわかった。
「碧斗さん!」
律子は羞恥のあまり、怒鳴ってしまった。そんなーー女を見る目で見られても。
「ごめんね。そういう意味じゃないから」
「わかってます」
律子の言葉に、碧斗の目の奥の光が揺れた。
二年前。碧斗が去る前、律子は幼過ぎて、わからなかった。葛藤がなかったはずがないのだ。そう考えると、優しくする気分になってきた。
「お仕事は順調ですか? 一人暮らしで困ったこともおありでしょう」
「うん、まあ、最初のほうは、いろいろ大変だったけど、まわりの人がよくしてくれたから。仕事は順調だよ」
碧斗はもごもごこう言った。
「足を休めるところを探しましょう。それでいいですね」
律子は言い切った。
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