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結局は妥協して、マックで過ごすことにした。
「怪我はどうなってますか」
碧斗はスマホを取り出して時計を見た。
「僕の怪我の具合を気にするまで、三十一分。三十分たったんだよ、りっちゃん」
「くっ」
「僕のこともうちょっと心配してくれても罰は当たらないのにね」
「くっ」
(む。むかつくわ碧斗さん)
「怪我はどうなってますかー?」
「テキトウな気遣いの言葉アリガトウ」
碧斗は口をぱくぱくさせて言った。
「――ふふ、冗談だよ?」
黒のパンツの裾をまくってみせた。
「腫れてはいないようですね」
「ああ、うん、そうかも。痛みももうない」
「よかったですね」
「うん、まあ」
それから、沈黙になった。
「……」
「……」
(気まずい)
この完璧に整った顔立ちを見ているだけでも胸が苦しくなる。
碧斗さん、碧斗さん、会いたかった。あたし、あなたのことがずっと好きなの。
――なんて。
(言えるわけがないわね。だって、あたしは恋心を利用されて完全に捨てられた)
ふうとため息をつく。
碧斗は言った。
「りっちゃんのこと利用して一柳を去ったことは後悔してる。悪かったよ。でも、お祖父様や両親を捨てて別の人生を生きるには、僕は冒険心を持ち過ぎたんだ」
「わかっています」
「そう? わかってないんじゃない?」
碧斗は薄く微笑みを浮かべた。
「りっちゃん。僕とタメ口で会話しようよ。ここにいるのはただのお互いとっくの昔に成人した男と女なんだから」
闇色の惑わせる目で言う。律子はドキリとした。
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