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ドキリとはした。
でも。
「タメ口? もうあなたとは、護衛でもその護衛対象でもないんですよ。今更仲良くする意味、あります?」
でも、態度を変えようとは思わなかった。
律子はこの男が『家出』するのに利用されたのだ、許してはならなかった。だってまた泣かされるのは明白だからだ。
――どんなに愛を懇願されたとしても。
つんと顎をそびやかした。
「あなたは百人と交際しているんでしょう」
「僕は」
碧斗は、しょげたように、しかし柔らかく言った。
「元カノがひとりだけだっただけだよ。今はフリー……」
(今は、フリー……)
しげしげと見る律子の視線に当てられて、碧斗の耳が赤くなるのを見て、不覚にもきゅんとした。
「三か月前に、『結婚したい人がいるの。慰めてあげたいの』」って言われてふられた。みじめだよね」
(今は、フリー)
何度も繰り返した。その言葉にぐらつきそうになった。
――ライバル女子に会わないといいね。
送り出してくれた里美の言葉を思いだす。
(里美はどこまで知ってるの? もしかして、里美の知り合いが碧斗さんの元カノなの?)
「……」
「……」
ぐるぐる考えているうちに、碧斗はあっさりと言った。
「じゃあ、出ようか。お互いもう会わないだろうけど、元気で」
自分はふられたのだ。
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