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トレイを片付ける碧斗を泣きたい気持ちで見た。手に救った砂が、指の間からこぼれて落ちていく感触だった。
「へ、碧斗さん!」
我慢できず、律子は声をかけた。
ひょいっと碧斗は振り返った。
「携帯の連絡先、交換してもかまわないでしょうか」
精一杯の勇気だった。
碧斗はしゃべった。
「りっちゃんは……フリーなの?」
「えっ」
どういうことなのだ。碧斗が律子の交際関係を尋ねている。
「フリーです! でも、あなたのこと忘れられなかったとか、そういうことじゃありませんから!」
拳を握りしめてそう言った。
果たして碧斗の返事やいかに?
「りっちゃん、ほんと僕のこと……好きだね」
(あ、ああっ)
律子は頬が熱くなるのを感じて、うつむいた。
碧斗も『とても』照れているようだった。
それが救いだった。
律子はミスを犯した。
油断してはならなかったのに。
ただ、碧斗と感情が通じたと思って浮かれていた。
油断してはならなかったのに。
だって、今はお昼時で、ここは一柳本社に近いマックだったのに。
「どういうことだ」
その声が聞こえてきたのは、ふたりで交換をしあった後だった。
「律子。碧斗くん。なぜ君たちが楽しそうに会っている」
本郷千尋が後ろに立っていた。
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