護衛の女性

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 その次の日は、大学があった。  送り迎えをしてくれる玉川(たまがわ)のポルシェから、碧斗は一歩足を踏み出した。 「今日も行ってらっしゃい」  玉川は黒髪ポニーテールの美人なお姉様だ。運転もとてもうまく、以前はタクシードライバーをしていたらしい。律子も、できた美人なお姉様を自然と慕っていた。 「行ってきます」  そう声を運転手にかけ、碧斗と律子と葛西の三人は歩き出した。  最初の頃は護衛の律子たちは黒スーツにしていたが、「お願いだから地味なかっこしてえええ!」という碧斗の嘆願から、地味な灰色のスーツにしている。  講義で、ノートを書く碧斗の両脇を固めるように、律子と葛西がいた。 「本郷さんはさ、」  碧斗が律子に尋ねた。 「僕の護衛にならなかったら、何をしてた?」 「んー、そうですねえ」  特に考えたこともなかったことに気づく。 「いいえ、碧斗さんの護衛になること以外に考えられませんね」 「真面目っ子だなあ、りっちゃん先輩は~」  軽いノリで言う葛西。 「俺は、護衛にならなかったら、ヒモになってたな。美人で優秀なお姉さまの家の家事をして、楽しく暮らすんだ」 「ヒモって職業……?」  律子はあきれて葛西を見やった。 「碧斗さんこそ、どうなんですか? 一柳の社長にならなかったら」  葛西は碧斗に向かって話題をふった。律子は咎める声で制しようとした。 「葛西あんたね。碧斗さんは社長の息子として生まれてきたんだから、それ以外の選択肢なんてないの。ちゃんとわかってる?」  律子の言い方に、碧斗は遠くなった目をして、すっと視線をそらした。 「それ以外の選択肢、か……」  ぽつりとこぼす言葉は、小さすぎて誰にも聞こえなかった。
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