12人が本棚に入れています
本棚に追加
その次の日は、大学があった。
送り迎えをしてくれる玉川(たまがわ)のポルシェから、碧斗は一歩足を踏み出した。
「今日も行ってらっしゃい」
玉川は黒髪ポニーテールの美人なお姉様だ。運転もとてもうまく、以前はタクシードライバーをしていたらしい。律子も、できた美人なお姉様を自然と慕っていた。
「行ってきます」
そう声を運転手にかけ、碧斗と律子と葛西の三人は歩き出した。
最初の頃は護衛の律子たちは黒スーツにしていたが、「お願いだから地味なかっこしてえええ!」という碧斗の嘆願から、地味な灰色のスーツにしている。
講義で、ノートを書く碧斗の両脇を固めるように、律子と葛西がいた。
「本郷さんはさ、」
碧斗が律子に尋ねた。
「僕の護衛にならなかったら、何をしてた?」
「んー、そうですねえ」
特に考えたこともなかったことに気づく。
「いいえ、碧斗さんの護衛になること以外に考えられませんね」
「真面目っ子だなあ、りっちゃん先輩は~」
軽いノリで言う葛西。
「俺は、護衛にならなかったら、ヒモになってたな。美人で優秀なお姉さまの家の家事をして、楽しく暮らすんだ」
「ヒモって職業……?」
律子はあきれて葛西を見やった。
「碧斗さんこそ、どうなんですか? 一柳の社長にならなかったら」
葛西は碧斗に向かって話題をふった。律子は咎める声で制しようとした。
「葛西あんたね。碧斗さんは社長の息子として生まれてきたんだから、それ以外の選択肢なんてないの。ちゃんとわかってる?」
律子の言い方に、碧斗は遠くなった目をして、すっと視線をそらした。
「それ以外の選択肢、か……」
ぽつりとこぼす言葉は、小さすぎて誰にも聞こえなかった。
最初のコメントを投稿しよう!