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碧斗とデート
研究室から出てきた碧斗は、律子に言った。
「今週末、久酒(ひさざけ)たちと出かける計画立ててたんだけどさ、ひとり都合が悪くなって、なしになったんだ」
久酒というのは、碧斗の友達だ。
「だから?」
「だからさ、本郷さん。僕とデートしよっ」
「ええ?」
こんなとき、どう断るかは、考えたこともなかった。
(でも、碧斗さんには紗絵がいるじゃない。こんなこと知れたら~~)
などと考えている間に、碧斗は律子の手を握った。
(え……?)
碧斗は律子の手を握ったのだ。
「ええっ? ええええええ!?」
思わず声を出してしまった。「え」しか言えない生き物になってしまったのだ。
今の自分は、たぶん他の人からみたら、ゆでだこのように見えたであろう。
なんと言っても、一柳碧斗が本郷律子の手を握って……デ、デートに誘ったのだ。おまけに手まで握られている。
「へ、碧斗さん……」
もう息も絶え絶えであった。
しかも、まだ続きがあった。
握り締めた手にキスを落とす。
「約束だよ?」
「……ッ」
それだけで、律子が落ちるのは簡単なことだった。
というか、卒倒しなかっただけ自分で自分を褒めてやりたかった。
今日の洋服は、おしゃれをした。化粧も気合を入れたものになった。
いつもポニーテールにしているボリュームのある巻き髪を下して、できあがり。
約束の場所、寮の外では、もう碧斗を乗せた車が待っていた。
「お、りっちゃん。可愛いじゃないのー。りっちゃんみたい娘をエスコートできる男は幸せ者ね」
運転手の玉川から褒められて、おおいに照れた。
「どこが」
などと明後日の方向を見ながらぶつぶつ言う今日の警護当番の鈴城の対応にちょっとへこんだ。
(あたし、そんなにだめ?)
鈴城の言葉にへこんだままだった。できることならこのままUターンして帰りたい。
これが碧斗さんだったら……と夢想していると、碧斗も言った。
「可愛いよ、すごくよく似合ってる」
生きててよかった……!
そう思える瞬間だった。
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