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◯株式会社HATCHの外観
◯同・会議室
後輩の久遠に壁ドンされて、天馬の驚いている顔のドアップ
久遠「先輩って、吸血鬼ですよね?」
天馬M「どうしてこうなったのだろうか……」
***(フラッシュ)
◯天馬の住んでいるアパートの外観・(朝)
◯同・ゴミ集積所
天馬が欠伸をしながらゴミ出しをしている。後ろから近所のおばさんに、声をかけられた。
おばさん「今日も、朝早いね」
天馬「朝早く起きると、気持ちいいですよ」
おばさん「元気だねえ」
◯満員電車・(朝)
通勤時間のため、たくさんのサラリーマンや高校生などで埋めつくされている。
天馬M「今日もいつも通りだな」
◯株式会社HATCHの外観
◯同・営業部
天馬が中に入って挨拶をして、席に座る。そこに椅子に座ったままで、後ろからきた同僚の男性におちゃらけた様子で声をかけられた。
天馬「おはよう」
同僚「ほんとお前って、仕事できるやつだよな」
天馬「何だよ……薮から棒に。煽てても何も出ないぞ」
同僚「そんなんじゃないって、同期の中で一番の出世頭だぞ」
◯同・会議室
会議が終わり周りが、次々と会議室を後にした。天馬はそんな時に、久遠に呼び止められ壁ドンをされた。
***
◯同・会議室
天馬は未だに壁ドンされて、身動きできずにいた。
天馬M「代わり映えしない俺の日常……それが、よかったのに」
天馬M「何故なら俺は、江戸時代後期に生まれた吸血鬼だからだ」
天馬はそこで我に返り、ため息をつきながら冗談ぽく言う。しかし、イタズラに笑う久遠。
天馬「そんなわけないだろ? あれか、テレビやアニメの見過ぎだろ?」
久遠「あくまでも、しらばっくれるんですね」
久遠「……分かりました」
天馬M「やっと、納得したのか」
天馬はそっと胸を撫で下ろす。久遠はワイシャツのボタンを取って、首筋を天馬に見せてきた。
久遠の白くて透明で綺麗な首筋を見て、天馬は涎が出てしまう。
天馬M「血を吸いたい。ダメだろ……ここで吸ったら、でも吸いたい」
天馬M「かぶりついて、思いっきり吸い付きたい……あーあの、白い首筋が赤く染まるところが見たい」
天馬が必死に衝動を抑えて、口を結んでいた。そんなことお構いなしに、久遠が詰め寄ってきて耳もとで呟いた。
久遠「いいですよ……我慢しないで下さい」
首に腕を回して、気がつくと右の首筋にかぶりついていた。久遠が小さく呟くが、あまりの美味さに無我夢中で吸い付く。白くて透明な肌が、赤く染まっていく。
久遠「いっつ……」
天馬M「今まで飲んできたどんな血よりも、美味しくて甘く感じる」
天馬M「これは間違いなく愛血だ」
天馬が我を忘れて喰らい付いていると、顰めっ面をした久遠に引き離された。そこで天馬は我に返ったが、久遠が痛そうに首筋を手で押さえていてそこから血が見える。
天馬は思わず、唾を飲み込んだ。スーツのポケットに入っていたカットバンを久遠の首筋に貼る。
天馬「ごめん……」
久遠「先輩が謝らないでください」
天馬M「愛血は吸血鬼一人一人で違って、運命で結ばれたご馳走である」
天馬M「愛血を一回飲めば、他の血液が不味くなる」
それでもダメだと、天馬は首を横に振る。戸惑っている天馬に久遠が告げた。
天馬は思わず目を逸らしてしまうが、真っ直ぐな久遠の言葉に戸惑ってしまう。
久遠「好きなんですよ。神威先輩、俺はあなたのことが」
天馬「好きって……俺もお前も男じゃないか。しかも俺は吸血鬼で、お前は人間だ」
久遠「そんなの分かってます……いつでも、俺の血吸っていいんで……付き合ってください」
久遠に信じれないぐらいに真っ直ぐで、純粋な目を向けられる。天馬の胸がチクリと痛む。
天馬M「俺としては愛血を吸えるなんて、これ以上ない喜びだ……」
天馬M「それでも人間と付き合うなんて、よくないことである」
天馬M「俺にとっては別に、男だとか女だとかそんなことはあまり重要ではない。問題は人間であるということだ」
吸血鬼の寿命は人間の何百倍だ。吸血鬼と人間では、恋はできないと天馬は自分の胸に刻み込んでいる。
久遠「どうしても、無理ですか」
天馬「……いいか、まず俺たちは人間と吸血鬼なんだよ」
久遠「そんなの、関係な」
天馬「あるだろ! お前が思ってるほど、そんなに簡単な問題じゃねーんだよ」
***(フラッシュ)
◯江戸時代後期・とある民家
当時まだ、天馬が若かりし頃(20)一人のお侍さんと、キスをしている。
その恋人は疫病にかかり床に伏している。その様子を涙ながらに、見つめている天馬。
天馬M「初めて出来た恋人だった」
天馬M「その時に俺はもう、人間とは付き合わないと決めた」
***(フラッシュ)
◯株式会社HATCHの外観
◯同・会議室
もう顔も覚えていないかつての恋人を思い出して、泣きそうになる天馬。
その様子を見て、久遠は苦虫を噛み潰したような表情になった。
久遠「先輩がどんな恋愛してきたか、知らないです」
天馬「知る必要もない」
久遠「それでも俺は、もう誰とも付き合う気はない」
天馬は久遠が死ぬかもしれない未来を思い浮かべて、悲しくなってしまう。天馬は久遠の血を吸った時の快感を思い出し頬が赤くなる。
天馬は恋愛はしたくないと、久遠の方を見ずに頑なに首を横に振る。久遠に肩を掴まれて、思わず久遠の方を見るとかなり真剣な表情で言われた。
久遠「付き合ってくれないのなら、今すぐに先輩が吸血鬼だと言いふらします」
天馬「……きたねーな」
久遠「いいんです……どう思われても、俺は先輩が好きなので」
かなり真剣な眼差しに、更に嬉しくなって思わず右手で顔を隠してしまう。会社を辞めることにして、辞表でも書こうかと思った。
再び天馬は久遠の血を吸った時の、快感を思い出し頬が赤くなる。久遠のカットバンの貼っていない方の左側の首筋を見る。
天馬は涎が出てきたが、スーツで口元を拭った。久遠はその間もこっちを見ている。
天馬M「相手がどうとかどうでもいい。要はこっちが本気に、ならなければいいのだから……」
天馬「はあ……分かったよ。但し、会社では今まで通りに振る舞うこと」
久遠「分かりました! では、こっち見てください」
天馬「何だよ……ちょっ、んっ」
天馬が久遠の目を見ずに告げたが、久遠は直ぐにガッツポーズをしていた。天馬が少し胸を抑えていた。
久遠は本当に嬉しそうに微笑んで、天馬の頭を撫でてきた。天馬は唾を飲み込みながら、久遠の左の首筋を凝視する。
天馬M「どうせ吸血鬼にとっては、あっという間に過ぎていく時間だ」
久遠は天馬の近くに来て、とても嬉しそうにいきなりキスをしてきた。天馬は明らかに、怒った様子で久遠の頭を軽く叩いた。
久遠「痛いっスよ、先輩」
天馬「うるせー、勝手にキスすんじゃねー」
久遠「じゃあ、聞いてからならいいんですか」
天馬「お前な……はあ、勝手にしろ」
天馬は言葉とは真逆に嬉しそうな久遠を見て、その意味が分からないと言った様子で久遠を見つめる。
久遠の右の首筋のカットバンに、少し血が滲んでいる。天馬は涎が垂れてきたが、口を結んでじっと我慢する。
天馬M「これから何度も血を吸うことになる。だから、キスぐらいどうってことない」
天馬は喜んでいる久遠を見て、ため息をついた。それでもずっとニコニコ笑顔を浮かべている。
天馬「何で、俺が吸血鬼って分かったんだよ」
久遠「俺の親父がやってる吸血鬼専門の病院に、先輩が来たからです」
天馬「おっふ……」
天馬はなるほどと、納得するしかなかった。天馬は久遠の首筋を見て、何度も何度も涎を垂らしてはスーツで拭っていた。
天馬M「愛血のためだと無理矢理に納得した」
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