ユメト殺害計画、実行へ

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ユメト殺害計画、実行へ

 僕はよくよくエゴの強い人間なんだろう。  「本当にこれで良いのか?」という思いに迷いながらも、計画を粛々(しゅくしゅく)と進めている。  最後に残った最重要課題の“ユメトの処理”についての申請も、何度目かの修正の後ほぼ最終段階と言ってもいいところまで詰めることが出来た。  最後に管理局の審査官が実際にここに来て、アンドロイドを封じる場所を確認しておきたいと言ってきた。  今までもアンドロイドの本体を保存したままでの“処理”に難色を示してきた彼らは、埋葬予定の場所を目で見て、処理されたはずのアンドロイドが《万が一目覚めてしまったとしても再び活動を始めることは出来ないだろう》と認められないことには許可が降りないと言うのだ。  仕方なく、ユメトが例の農場に出掛ける日を見計らって、家に来てもらうことにした。  審査官は三名で、家の中やハウスガーデン、外の畑などをじろじろと見て回った挙げ句、 「まあまあよく整理整頓されてますね。ハウスキーパーとしては優秀なアンドロイドじゃないですか」 と余り気のない口調で言ってきた。  僕も負けずに「はあ」と気のない返事をした。  最後に裏山に登り、ユメトと僕の埋葬予定地を見た。  既に据えられている(ひつぎ)替わりの二つのアクリルケースを見て「まるで白雪姫ですねえ」と皮肉げな視線を僕に寄越(よこ)す。  なんともいたたまれない羞恥心に耐えながら「はい」と答えた。  (ええ、ええ、僕には(およ)そ似合わない棺ですよ。わかっていますとも)  確かにこの棺を思いついたのは白雪姫からの発想で、僕には余りにも似つかわしくないアイテムだ。  全てはユメトのため。ユメトを誰よりも美しく眠らせたい、それだけなのだ。  あなた方が案ずるような、ユメトが僕の死後に復活することなど僕も望んではいない。  僕が居なくなった後、彼をたった一人この世界に残していくわけにいかないと思っているからこその、この計画なのだから。  今までの僕なら彼らの嫌味な視線に耐えきれず、(うつむ)いて 「もう、いいです」 と言って逃げ出していただろうけど、今日はユメトのために必死でふんばった。  この訪問の際、彼らは「僕の体調を(おもんぱか)って」という理由で、僕に生体センサーを使うことの許可を求めてきていた。  呼吸数や脈拍、発汗作用などを調べられるという。  なんのことはない“嘘発見器”だ。  僕が嘘の申請をしていないかを調べ、万が一虚偽の申請をしてアンドロイドを逃亡させるつもりがないか確認するというわけだ。  僕は一つ一つの質問に対して、丁寧に慎重に言葉を選びながら嘘をつかないように答える必要がある。  その緊張のおかげでこの面接の間中、血圧も脈拍も発汗量も普段より高めだったと思うが、高めのままでずっと推移していたらしく、質問に答えている間、(とが)められることはなかった。  僕の死後、正確には心肺が停止した後、一時間以内に自動でアンドロイドを強制的に棺の中に移動させ、横たわった瞬間に全ての活動が終了し眠りにつくようプログラムを作り、それをネットを通じて既にアンドロイド本体にインプットしていること。  アンドロイドが棺に横たわり活動を停止すると、センサーが発動して棺の(ふた)が閉まり、自動ロックがかかること。  棺は一度閉めると絶対に開けられないようになっていることなどを説明し、実際に僕のコンピューターを見せて、説明した通りのプログラムの内容かどうか確認させることまでした。 「ここまできちんと準備出来ているなら、大丈夫でしょう」 と一旦僕を安心させておいて、最後に彼らは万が一のために、外からのロック解除が一回だけ出来る設定にするよう要求してきた。  言う通りにプログラムを書き換えると、更にロック解除のためのパスワードが何なのかか聞いてきた。 「本来開ける予定のないものなのだから、あなた方には必要のない情報じゃないか」 と訴え、教えるのを渋ったが、彼らはしつこく何度も聞いてきたうえ、このパスワードを教えてもらえなければ許可が下りないと脅迫(きょうはく)めいたことすら言ってきた。  僕も必死に粘って教えるのを拒否し続けたものの、とうとう最後に 「アンドロイドの名前です」 とさせられてしまった。  僕が答えると彼らは生体センサーをチェックし、嘘をついていないことを確認して満足そうに帰っていった。  彼らが出ていくのを見送った後、どっと疲れが出てへたりこんでしまった。
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