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農場から帰ってきたユメトは僕が消耗しきっているのを見て、びっくりして寝室まで肩を貸して寝かせてくれた。
とにもかくにも、全ての準備は整った。その日の夜には《アンドロイド処分許可証》が届いた。これさえ来ればこちらのものだ。
それ以来すっかり気が抜けてしまったのか、寝込むことが多くなった。
ユメトは淡々と看病してくれた。採れたての野菜を使った料理を、食べやすいように工夫して毎日ベッドに運んでくれる。
「ちゃんと全部食べてくださいね」とか「明日は起きられそうですか」とかそんなことは何一つ言わず、ただ黙ってそばにいた。
それが返って「元気にならなければ」という思いを強くし、食事を頑張って食べ、しっかり体を休めているうちに、なんとか起きて家の中を歩き回れるようになるくらいに回復した。
僕はいよいよ計画を実行に移す時が近付いていると考えた。
もし次に体調を崩したら、もう二度と決行出来ないかも知れない。
全ての準備は整っている。
あと必要な条件と言えば…そう、例えば天気。
電源を完全に落とした後動かないユメトの体を抱えて、埋葬地まで担いで登るのは雨の日には難しいだろう。
この家の周りは何も舗装されていない土だから、雨の日は引きずられたユメトの体が泥だらけになる危険性がある。
……などと窓の外に降る雨のしずくを見ながら考えた。
「次に晴れたら、実行しよう。雨がやんだら…」
別に天気にかこつけて計画を先延ばしにしているわけじゃない。
雨はあと二、三日降り続けると天気予報が出ていた。
雨が降っている間は無理だ、仕方がない……
翌朝、天気予報を裏切って雨雲はすっかりどこかに消えてしまい、初夏の青い空と明るい太陽が僕の胸を突き刺した。
なんという計画実行日和。
ユメトは既にキッチンで朝食の準備をしている。
ミラーを見なくても、自分で自分の顔が強張っていくのがわかった。
震える手で頬を叩き、何度も深呼吸をする。
肺を空気で一杯にし、腹に力を入れないと、心臓が跳ねるのを抑えられなかった、でも……
今だ。今しかない。
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