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野菜か何かを切っていたユメトは、キッチンに来た僕の足音に気付いて、後ろ向きのまま挨拶する。
「おはよーございます。ゴシュジン、今朝は早いですね」
「う、うん、お早う。ちょっと、目が、覚めちゃってね」
うん、大丈夫。ちょっと声が上擦ってしまったけど、朝の挨拶としては自然な流れだ。
その証拠にユメトはチラリとこちらを見た後、また調理の続きに戻っている。
僕は足音を忍ばせながら、そうっと後ろからユメトに近付いた。
アンドロイドの電源を外部から落とすには、アンドロイドの持ち主だけに与えられた特殊なリモコンで信号を飛ばすしかない。
このリモコンからは一時的にアンドロイドの動きを止められる信号も発せられるようになっているが、僕がこれからユメトに照射しようとしているのは、たった一度しか発射できない《アンドロイドを完全に封印する信号》だ。
この信号を照射されたアンドロイドは二度と再起動出来なくなる。
何らかの理由で暴走してしまった時などに使われる最終手段で、これはアンドロイドの正式な所有者以外使えない仕様だ。
そのリモコンを隠し持って、そろり、そろりと僕はユメトに近付いていく。
キッチンの中は電磁調理機や色々な障害物があり、充分近寄らないと、こんなに震えた手で正確に信号の電波を照射するのは難しい。
すると後ろを向いたまま、ユメトが明るい声で聞いてきた。
「ゴシュジン、僕の体重ってどのくらいあるか知ってますか?」
ふいを突かれて、もう少しでリモコンを落としそうになる。
「え?た、体重?」
体重?アンドロイドの体重ってどのくらいだっけ?
「じゃあヒント。身長は170センチです」
えーっと、アンドロイドの体重、体重…。確か個体に備わった機能によっても変わってくるって聞いたけど、ユメトは元々家事をするために製造されたから、普通の人間とさほど変わらないはず…。
「えっと、えっと…ろ、60キロ?」
「ブブー、違います。51キロです」
そうか、最初は女性型にするつもりで作り始めたから、普通の男より軽めになるんだな。
「9キロも軽かった」
「はい、僕少し軽いです」
そう言うと火を止めて振り返った。
「でも今のゴシュジンが担いで歩くには、とても重いです」
「えっ?な、何を言って…」
「今のゴシュジンの体力では、電源が切れた僕を担いで、あのお墓の場所まで運ぶのは無理です」
頭が真っ白になった。
「ユメト…知って……」
「はい、知ってました」
少し困ったような笑顔になって、彼の代わりに動きが停止してしまった僕の手を取る。
「ちょっとお話しましょうか」
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