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「ツクヨミ」
アカリはツクヨミの名を呼んだ後、一瞬ためらいながら唾を飲み込んだ。彼女の声には明らかな緊張が感じられた。
「もし……もしもだけど、私が現世に干渉したら、それって私が悪霊になるだけだよね?」
アカリは思いもよらない事を言い出した。
《アカリさん、愚かな考えを持っているのでしたら、今すぐ捨ててください》
ツクヨミの声は厳しく、冷たさに帯びていた。
「愚か? 私は両親にひとこと言いたいだけよ。私は死んでしまったけれど、お父さんとお母さんはまだ生きてるのよ。私のせいで二人に何かあったら……」
アカリは両親と話したい意思を示した。これ以上、彼女は両親の痛ましい姿を見たくなかったからである。
しかし、ツクヨミから突き付けられたのは、アカリの意思を打ち砕く程の残酷な現実であった。
《悪霊というのは現世に影響を与えます》
「え?」
《両親がアカリさんの魂を認知すると、アカリさんの未練に影響を受け、両親の魂も悪霊と化してしまうのです》
アカリは魂から震え、全身が凍りついた。
《干渉した場所に閉じ込められるのはアカリさんだけではありません。両親も道連れです》
「そ、そんな……」
アカリは両親に「今までありがとう」と伝えたいだけだった。
しかし、その言葉が両親を永遠という名の地獄に送り込む呪いとなるとは、アカリには想像もつかなかった。
彼女は両親を道連れにする事を望んでいない。
現世への干渉の危険性を知り、アカリは胸の苦しさを抑え、両親を静かに見守ることにした。
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