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《アカリさん、申し訳ありません。今の話は、アカリさんが現世へ行く前にお伝えすべきでした。その話をすると、多くの人が萎縮してしまうため、言い出しにくかったのです》
ツクヨミの声は穏やかだが、どこか弱々しかった。アカリが現世への干渉を軽んじたのは、彼女に全てを教えなかった自分の責任だと自覚していた。
「いいの。私の考えが甘かったのよ。これから気を付ける」
《……両親は悲しそうでしたね。それだけアカリさんを大切に思い、育ててきたのですね》
「う、うん……」
両親に対して感謝の言葉すら伝えられない。
アカリのもどかしい気持ちを察したかのようなツクヨミの言葉に、アカリは少しだけ落ち着きを取り戻した。
《アカリさんの未練はご両親に関するものですか?》
「ひょっとして、私の未練を知ってるの?」
《いいえ、知りません。巻物に書かれるのは現世の出来事だけです。それに基づいて推測することは可能ですが、結局のところ人間の心情は計り知れません》
神であるツクヨミですらわからない事がある。それを知ったアカリは緊張がとけ、「ふう」と一息ついた。
「私はお父さんとお母さんの本当の子供じゃないのかもしれない……」
アカリは自分が未練に感じている事を明かした。
「『私は両親に愛されてる。血のつながりなんてどうでもいいじゃない』。自分の中で何度もそう言い聞かせてきた。でも、やっぱり無理。私は本当の子供なのか、そうじゃないのか……それだけが知りたい」
アカリが両親の子供じゃないと疑念を感じるようになったのは、小学5年の時。成長した自分は両親のどちらにも似ていないと気付いた。
《アカリさん。両親を心配するなとは言いません。ですが、何があっても現世への干渉だけはしないでください》
「わかった」
現世への不干渉を徹底し、未練を断ち切る。
アカリは決意を固めた。
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