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「アカリは私たちの実の娘ではありません。主人の親友の娘なのです」
アカリの母がそう呟いたとき、イツキは「え?」と驚きの表情を浮かべる。
彼女はさらに続けて言った。
「アカリの実の両親は……あの子が2歳の時に亡くなりました。引き取り手のないアカリを不憫に思い、主人と相談を重ねて、養子として迎える事に決めたのです」
部屋に沈黙が漂う。イツキは目を細め、口を結んだ。
自分は実の子供ではない。その事実を知ったアカリは視線を落とし、ため息をついた。
《アカリさん、大丈夫ですか?》
「うん……その……なんとなく感じていたけど、いざ真実を知ると複雑な気持ちというか……やっぱりショックというか……」
アカリは自分の胸の内をツクヨミに明かした。
《落ち込むにはまだ早いですよ。両親の話はまだ終わっていません》
「え?」
アカリは両親に視線を向ける。
静寂の中、アカリの父が口を開いた。
「イツキさん、確かにアカリは私たちと血の繋がりはありません。ですがアカリは大切な娘です」
父は娘への思いを言葉に紡いでいった。
「アカリとの結婚を決意してくださったこと、心から感謝しています。どうかアカリのことは忘れ、イツキさんには新しい人生の道を歩んでいただきたいのです。天国にいるアカリもそれを望んでいると思います」
父ははそう述べ、深々と頭を下げた。
「お義父さん、お義母さん……」
イツキは仏壇の横の棚を見つめ、膝の上に置いていた拳をギュッと握りしめた。その棚の上にはアカリの遺骨が納められた壺が置かれていた。
血の繋がりは関係ない。やっとそう思える事ができた。その思いと共に彼女の口元には優しい微笑みが浮かんだ。同時に彼女の首にかけられた月の石も、何かを察したかのように静かに輝き始めた。
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