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《アカリさん、ひとまずここまでとしましょうか。そろそろ相談所に戻ってきてください》
両親とイツキの会話がなくなったと同時に、ツクヨミがそう言った。
「え? どうして? まだイツキの話を……」
《今のアカリさんにとって、イツキくんの事を知るのは荷が重いと思います》
ツクヨミの意味深な発言に心を揺さぶられ、アカリは眉をひそめながらも、ゆっくりと立ち上がった。
「そういえば、ツクヨミは現世を監視していると言ってたわね。イツキの事を知っているんでしょ?」
アカリがそう質問すると、一瞬の沈黙が訪れた。
《……確かに全て知ってますが、今ここでイツキくんの全てを晒すとロクな事にならないでしょうね。アカリさんはイツキくんの事が好きなのでしょう?》
アカリにとって、イツキの話はとても重いのだろう。ツクヨミに彼女の気持ちを突かれ、彼女は身を震わせた。
《どんな話でも素直に受け入れられますか?》
ツクヨミの低い声が、話の重みをより一層際立たせていた。アカリは話を聞く勇気が湧かないまま、目を伏せて首を横に振った。
「わかったわよ。ツクヨミの言う通り、そっちに戻るわ。それで、戻るにはどうしたらいいの?」
《闇を想像してください》
アカリは軽くうなずいたあと、目を瞑り頭の中に闇を描いた。
そして彼女の頭の中が闇に染まり切ると同時に、彼女の足元から黒い文字が虫のようにうねり上がり、ゆっくりと彼女を覆っていった。
魂であるアカリには、その感触を味わう事はない。
「うぅ……」
気持ち悪い光景を見たくないと思っていたアカリは、呻き声をあげつつ、目を開ける事はなかった。
それからアカリの意識はフッと途絶えた。
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