D-So

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「お帰りなさい、アカリさん」  突如として意識が戻ったアカリの耳にツクヨミの声が響いた。アカリは恐る恐る目を開けると、微笑を浮かべたツクヨミが視界に入る。  アカリは周囲を見渡し、無事に悪霊相談所に戻れたことに安堵した。 「ただいま……て、現世の巻はどうしたの?」  アカリはロウソクが乗った机に視線を向けた。 「アカリさんが現世に行ったあと、僕の体内にしまいました。文字に包まれたアカリさんを僕の口から解き放ちました」  ツクヨミはそう言いながら自分の口を指差した。想像したくないものを想像してしまい、アカリは顔を引き攣らせた。 「それよりもアカリさん、月の石を見てください」  アカリは自分がかけているペンダントに視線を落とすと、月の石の右半分から純白の光が放出されている事に気づいた。 「新月から半月に変わってますね。つまり、アカリさんの未練が半分になったという事です」  アカリは現世で聞いた両親の話を思い出した。彼女は養子だったが、両親から愛されていた。その事実を知った彼女は、未練の一部を手放すことができた。 「ところで、アカリさんはお疲れではありませんか。そろそろ休憩されてはいかがでしょうか?」 「え? どうして? 私は魂だから疲れを感じないけど?」  アカリの返答を受けて、ツクヨミの表情は徐々に困惑を帯びていった。  最初に出会った時から、ツクヨミには神らしさを感じていなかった。しかし、アカリはそんな彼に対して次第に親近感を抱くようになる。そして、「そうだ」と言いながら、ひらめきが浮かんだ。 「ねえ、時間があるのなら、今度はツクヨミの話を聞かせてよ」 「えっ! 僕の話、ですか?」 「ツクヨミの昔話とか、今まで悪霊相談所に来た人たちとか……興味あるわ」  ツクヨミは眉間に皺を寄せながら口を結び、視線を落とす。 「どうしたの?」  ツクヨミの挙動に疑問を抱き、アカリは片眉をひそめた。もしかすると触れてはいけない話題だったのかと、彼女は心配になった――が、そう思ったのはほんの一瞬だけだった。
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