ヨミ

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ヨミ

 月の神ツクヨミの正体は、現世の人間であった。ツクヨミの本当の姿は地元から離れた大学に通う学生である。  彼は大学寮の自室に籠り、ヘッドセットを装着してノートパソコンのディスプレイを眺めていた。  狭い部屋は綺麗だが殺風景で、家具は立派な机と小さな冷蔵庫と布団のみである。机の上にはノートパソコンとディスプレイが置かれている。  ノートパソコンのディスプレイには、女性の上半身が映し出されている。彼女は長い黒髪を一つに束ね、水色の半そでのYシャツを着用していた。顔立ちはくっきりとした二重の大きな目が特徴的で、全体的に凛とした印象を与える。 「アカリさん、大丈夫ですか? あの……本当に申し訳ありません。僕の本当の名前は『月田(つきだ)ヨミ』と言います」  ツクヨミこと、ヨミはディスプレイに映った女性に話しかけた。 《……》  ディスプレイに映っているアカリは、ヨミを睨みつけたまま動かない。彼女の表情から怒りと混乱が感じられる。 「その……たしかに『悪霊相談所』は僕が構想した架空(プログラム)の世界ですが、アカリさんの魂や記憶、心は本物です。どうか、その点だけは信じてください」  これまでの嘘に対する懺悔の念を込め、ヨミは弱々しい声で事実を語った。 《私は架空の存在ではないの?》  アカリの問いかけがヨミの耳に届き、彼の心にわずかな希望の光が灯った。 「はい、貴女は僕と同じ現世に存在した星野アカリさんそのものです」 《じゃあ、どうして私は貴方の創ったプログラムの中にいるの? 私が成仏しないのはどうして?》  ヨミはふと、別のディスプレイに視線を向ける。 2045/08/28 15:32  Section1 ---Identity  ---STATUS CHECK ****** OK  Section2 ---Memory  ---STATUS CHECK ****** OK  Section3 ---Heart  ---STATUS CHECK ****** OK  そのディスプレイに表示されたログに、3つの正常メッセージが一定間隔で刻まれている。ヨミはそれを確認しながら、口を開いた。 「えーっと、じゃあまず、アカリさんの魂について説明することから始めましょう」  アカリは少しずつ状況を理解しながらも、口元をへの字に曲げた。
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