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アカリはヨミをじっと見つめ、彼の表情から真実を読み取ろうとした。深いクマが刻まれた彼の目は冷静さを保っているが、何かを隠しているような微かな揺らぎがあった。
「アカリさん、今日は何年何月何日ですか?」
《え? えーっと……》
アカリは、自分が亡くなったその日の朝の光景を鮮やかに思い出す。朝日が窓から差し込み、部屋の中には柔らかな光が満ちていた。スマートフォンの画面に映る日付は、彼女にとって人生最後の日付となった。
《たしか、私が交通事故で死んだ日は……『2024年7月13日』だった。スマートフォンで時間を確認をしたもの。それから数日経ってるはずだから、今日は……》
ヨミはまぶたを閉じ、ため息をついた。その瞬間、アカリは時間の流れに歪みが生じたような感覚に陥った。
「今日は2045年8月28日です」
ヨミの言葉は、時間が流れ始めた鐘の音のようにアカリの心に大きく響いた。
「今日は……2045年8月28日です。アカリさんが亡くなってから21年経過しているんです」
アカリを真っすぐに見つめながら日時を復唱するヨミの声には、過去と現在をつなぐ重みがあった。
彼は続けてさらに厳しい現実を明かした。
「ちなみに、アカリさんのD-Soが作成された日は『2024/07/24』で、それを作成したユーザーアカウントは『I_Mochida』。それは『持田イツキ』さんのアカウントです」
《え?》
アカリの心に鋭い物が突き刺さった。
《イツキって、私の知ってるイツキ?》
「はい、アカリさんがよく知るイツキさんです。アカリさんをD-So化したのはイツキさんです。ユーザーアカウント以外にもその証拠はあります」
ヨミはそう言いながら、視線を落とした。
アカリをD-So化した人物は、結婚の約束を交わした恋人のイツキと思われる。彼女の目には信じられないという感情が浮かんでいた。
アカリの心はあっけなく引き裂かれた。
「アカリさん! アカリさん! 大丈夫ですか!? あっっ! アカリさんの心制御プログラムバグコードが勝手に生まれている……!」
イツキはそう言いながら、次々に生み出されるバグを早急に修正していくのであった。
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