サイドA  生き残りをかけて

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サイドA  生き残りをかけて

「山井君! 開発状況はどうなってる?」  所長の神蔵(かみくら)が声を掛けて来た。 「ホープワクチンⅡ型の改良版は出来上がりつつあります。しかし中途半端にこれを出していいものか迷っているところです」 「なぜだ? もう時間がないんだぞ。分かっていると思うがもうこの国でも半数以上が感染、そして亡くなっている。悠長なことは言ってられない状況だ。上からも急げと指令が出てるしな」  近くで見ていた雪は不安そうに二人の会話を聞いている。 「しかし、これを中途半端に出せばきっとK4が誕生します。それこそ人類の滅亡を防げないと思います。ただでさえK3は人の発熱限界に近いところまで上がるんですから。ご存じだとは思いますが」 「しかし……」 「もう少しだけ時間をください。必ず今の段階より数段あげたものを開発してみせます」  内心、山井は不安であった。これ以上……そんなことが出来るだろうかと思いながら、神蔵に背を向け顕微鏡を覗き込んだ。神蔵はそんな山井を苦々しく思いながら研究室を後にした。
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