サイドA  生き残りをかけて

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「どうぞ」  中から声がした。彰は勢い良く部屋の中へ飛び込んだ。 「所長! どういうことですか? あれはまだ完成していない。まだ中途半端なものを世に出すんですかぁぁ?」  彰は怒りとともに悲しみを込めて神蔵を問い詰めた。 「山井君。いいじゃないか? 実際、ホープワクチンは以前のものより改良出来ているんだろう? それを世に出せばなんとか体裁は保てるじゃないか」 「何言ってるんですか? 所長……あのKウイルスの恐ろしさは所長も分かっていますよね? あんな中途半端にワクチンを世に出しても次にあれより強い、Kウイルスに進化すれば私たちに対処することはほぼ不可能です……今までの歴史が物語っているじゃないですか!?」  彰の口調は神蔵を軽蔑している。 「何が体裁ですか!」  神蔵はふっと笑う。 「もう、遅い……取り合えず上からの指示でもあるんだよ。どんな形でもいいとな。もう生産体制を整える準備も上から指示が出てるんだよ。まぁ、命令だな」  愕然とした。 「このままじゃ、未来がないというのに……」 「実際、大事なのはなんらかの形で私たちが努力して人類を救おうとしている過程を世に知らしめることなんだよ……結果、さらに最悪な状態になったとしても私たちはKウイルスと戦う努力をしたと……」  彰は拳を握りしめた。肩は震えている。 「山井君、疲れたろ? 暫く休みたまえ……君にはまた活躍してもらわないといけないからな」
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