サイドB 悪化

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「ねぇ、冴子先生……もう辛いよぉ」  葵唯は冴子に現状を訴えかけた。葵唯の顔には今まで押さえることが出来ていたイロウの侵食してきた細胞が浮かび上がるように出てきている。血管が異常に浮き出て皮膚が盛り上がりを見せ濁ったような紫色に腫れ上がっている。既存のプレベではもう押さえられない所まで来ている。 「葵唯ちゃん……」  本当はプレベが改良され今直ぐでも試すことが出来ると喉まで出掛けた。しかしやはりそれを伝えることは出来なかった。リスクが高すぎるのだ。しかし、このままの状態を長く引っ張っても最後は葵唯の死を迎えるだけだ。体力も落ち日に日に痩せていき、逆に身体中に腫れたような痣が点在し始めているのが目に見て分かる。 「もう少し待って……葵唯ちゃん」  冴子はそれ以上何も言えず病室を出ようとした。 「先生……」  葵唯が呼び止める。 「どうしたの?」 「冴子先生、もし、新しいプレベが出来たなら迷わず試していいからね。どうせこのまま何もしなければ助からないんでしょう? 今使ってるものも全然効いてる気がしないし……」  冴子は何も言えなかった。それに流行り出した感染症も気になる。最近はオーバーシュート、つまり爆発的な感染増加が起こっている。この施設は一般の施設よりもさらに最新の注意を払ってはいるがいつクラスターになるか正直分からない。聞くところによると五十人以上の感染者が出るメガクラスターが出ている施設もあるらしい。  葵唯の体力的且つ心身的な状態、世界情勢の問題と今、試すのはただでさえリスクが高いのに自殺行為に他ならないと冴子は感じていた。ただいつまでも葵唯の身体が持つとも考えられなかった。
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