サイドA 絶望

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サイドA 絶望

 ホープワクチンⅢ型は彰が意図せずに上層部の命令で生産された。世界では待ちに待った新型のワクチン誕生を歓迎した。そしてとうとう世界中でホープⅢ型が使われ始めた。一定の効果が顕れK3ウイルスの驚異は取り除かれた。  彰は神蔵に呼び出された。足取り重く所長室に向かう彰。 「どうだ……山井君。今、世界は救われているじゃないか? 君が開発したⅢ型はちゃんと効果を出しているじゃないか」 「そうですね……」  彰は苦虫を噛むような顔をした。 「不服かね……世界はこの研究所を、そして君を祝福しているぞ……君はこの世界の救世主だ」 「今はいいんですよ……しかし、この後Kウイルスが進化した時、人類は耐えうる人体の構造をしていない……」  神蔵は溜め息を吐いた。 「そうだろうね。きっと人類は今後、先はないのかも知れないね。人類ははしゃぎ過ぎた。この世界は正直汚れすぎたと思わないか?」  彰は神蔵の真意が分からなかった。 「きっと神は私たちの行いに怒りを持ってKウイルスを誕生させたのかも知れない。我々の発展はこの星の犠牲に成り立っていた。今の状態を見てみろ。大気汚染、環境汚染、土壌汚染……その他の環境問題……それは誰の責任だ? 私たち人類だろ? きっと我々はどうすることも出来ない所まで来ているんだよ……」 「そうかもですね……」  正樹にいつも痛いほど聞かされた。『このまま行けばこの星は終わるぞ』と。 「でも、それでも人類を私は守りたい。でなければ……」 「もちろん、私もその気持ちはあるよ。だから最後の最後まであがくつもりではいるさ」  神蔵は続ける。 「ここは人類最後の砦だ」
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