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両親は暫く沈黙した。この沈黙にいたたまれなくなり冴子は葵唯の意思を伝えた。
「葵唯ちゃんは苦しみから逃れたいためにもし可能性があるのならば新しいものが出来れば試して欲しいとおっしゃいました……ただし、今は分かりません。現状お話が出来ませんから……」
苦しんでいる葵唯の側にいることが出来ない両親はどんな思いでこの言葉を聞いたのだろうか冴子は考えた。
「そうですか……」
押し黙っていた父親が口を開いた。母親は何も言うことが出来なかった。冴子も無理に勧めることの出来ないもどかしさを感じていた。ただ時間もない。このまま時を過ごせばどの道、葵唯の未来は閉ざされる。
暫くの沈黙の後母親が切り出した。
「可能性は少しでもあるんですよね? 何もしないよりは……?」
「はい、可能性はあります。しかし助かる可能性は……」
「それでも……あなた……僅かな可能性に賭けましょう」
母親は父親に語りかけた。父親は首をゆっくり立てに振った。
「お願いします……葵唯を助けてください」
妻の手をしっかり握り冴子に画面越しに頭を下げた。
「全力を尽くします……こちらのビデオは録画しております……こちらを承諾した証しとして証拠に残します」
「葵唯をお願いします」
父親の言葉心に刺さった。事務的なことを付け加えないといけないことに冴子は惨めさを感じた。
「それでは至急取りかかります。葵唯ちゃんに会うことは出来ませんが、こちらにお越し頂けますか?」
せめてもの冴子の救いの言葉だった。
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