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サイドB プロローグ
涌島冴子は原因不明の症状で悩む八歳の少女高丘葵唯から取り出した細胞を電子顕微鏡で覗いていた。しかしこの細胞は何度やっても体内から取り出すと即座に死滅して機能を停止してしまう。培養が出来ないのだ。発症元は分かっている。それは葵唯の心臓だ。初めて見た時はこの異様な固まりはなんだと思った。綺麗な心臓にこびりついたように浮かび上がっている。生気のある色と反したようにどす黒く所々紫に変色している。まさか心臓ごと取り出すことも出来ない。やっかいなことにこの異様な細胞変異はまるで根を張らしたように各臓器に侵食している。臓器移植をしようものならほぼすべての臓器を移植しなければならない。実状は不可能だ。
冴子はこの変異した細胞を【イロウ】と名付けた。そしてこの状態のまま戦わなければならないのだ。
このイロウの進行を押さえる薬【プレベ】を開発した。投与した当初は急激に進行を押さえ一定の効果が得られた。しかし、そのイロウは嘲笑うかのようにプレベの効果は無効化し、イロウの変異体が誕生した。何度か新たな投与薬プレベの改良型を作るが、ことごとくイロウ進化する。このまま何もしなければ増殖し葵唯の臓器という臓器は侵食され、後は死を迎えるだけだった。
「葵唯ちゃん、今日は気分はどうかな?」
「うん。大丈夫。冴子先生が治してくれるから。だから治るまでおりこうにしてる」
葵唯は強い子だ。普段は大丈夫なのだがあの塊からたまに膿のような濁った液体や得たいの知れない匂いのある気体が発せられそれが体内を巡る時、葵唯は動くことが出来ずただ苦しむだけである。
早くなんとか助けてあげたい。そう決意する冴子だった。奥から誰が見ているかわからないがテレビのニュースが流れている。また新しいウイルスが流行り出したようだ。
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