18人が本棚に入れています
本棚に追加
如月正樹は途方に暮れた。加奈子がK3ウイルスに感染して三日も持たずにこの世を去った。通常通り葬儀もあげることも出来ず、感染した遺体はひっそりと焼却されお骨だけが戻って来るという状態だった。運良く正樹は感染検査の結果陰性で問題なかったが何も出来ずに加奈子を見送ることになるとは夢にも思わなかった。ほんの一年もせずに二人の生活は突然の終わりを告げた。
「加奈子……」
一人の部屋は一年前のように静けさだけが残った。何故こうなった? 頭の中はそれだけが巡った。Kウイルスの研究をしている人間が命を落とす。交遊関係のない人間からすれば馬鹿な話で済むのかも知れない。研究してそのウイルスに犯されて死亡するなんて意味がない。しかし、それだけ危険な研究なのだ。
正樹は一人パソコンに向かい仕事を始めた。何もする気にはなれないが何もしなければ悲しみに飲み込まれそうになるからだ。
正樹は環境に対してのジャーナリストだ。このところ環境の悪化が著しいのだ。海洋、大気、土壌汚染と数年前からすれば異常なスピードだ。それも人類が急速に発展してきたから他ならないのだが、それに加え今回のKウイルスとまるで人類が死滅する他、道がないような気がする。人が発展するにはある程度の犠牲が必要とは思う。しかし、思い上がりは人の思想を悪魔に変える。発展を求めれば求めるほど、それは他のものを苦しめ、自らの手で自らの首を絞めているようなものだ。
「もしこの星から人類がいなくなればどうなるのだろう? 正常化された星は生きながらえることが出来るのか? 人類とはいったいなんだろうか?」
加奈子を失った正樹はそればかりを考えながら原稿を作りあげていた。
最初のコメントを投稿しよう!