サイドA 発症

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 山井彰は肩を落とした。有能な一人如月加奈子がK3ウイルスによって命を落としたからだ。Kウイルスはその危険度レベルが年々上がっていく。Kウイルスは当初、風邪と似た症状だった。発熱を起こしても平均三十七、八度だったものがK2になると三八から四十度、そしてK3に至っては三十九から四十一度、下手をすると命に関わる四十二度まで上昇する。突然症状が発生し一気に発熱に至るため一度掛かると半ば諦めなければいけないレベルのウイルスだ。そしてもしこれがK4が発生すればほぼ助からないキラーウイルスになることは間違いない。もうギリギリなのだ。  加奈子は発症して一気に体温が上がり四十一度を記録していた。これ以上どうすれば良いのか山井は追い詰められていた。  彰はスマホを取りだしある人物に連絡を入れた。 「もしもし……正樹か?」 「彰か? どうした?」  やはり言葉に覇気がない。失ったもののだいしょうはあまりにも大き過ぎるようだ。 「加奈子さんの件、本当に申し訳ない。研究所としても一個人としても間に合わなくて」 「何言ってんだよ? お前らのせいじゃないだろ? お前たちは良くやってるよ。一時でもウイルスを押さえることに成功してるんだから」 「それはそうだけど……」  正樹とは大学時代からの親友で正樹が同僚の加奈子を紹介した縁で二人は結ばれたのだが、それが約一年の短命に終わってしまった。 「だからさぁ、頑張ってくれよ、彰。加奈子の分も……今回のウイルスは本当に危険なのは目の当たりにして感じてる。今じゃあんなに賑やかだったこの辺りもゴーストタウンと化している。このままじゃ本当に人類滅亡だよ」  やり場のない正樹の声はそれが精一杯だったようだ。 「期待してる。正樹……なんとか人類を救ってくれ」  そう言い残すと通話は途切れた。 「もし、本当にこのK3を防げばどうなるか……もしK4が出が誕生すればそれこそ終わりだ」  彰は通話の途切れたスマホを傾けたまま一人虚しく話続けた。
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