少年と敵

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少年と敵

「王太子よ。今、この薬を森の魔女様にお調べ頂いておる。場合によっては、お前の地位は剥奪し、必要な処罰も行う。王族として、覚悟せい」 「魔女様に……? 何故ですか! 父上の為に、遠方から取り寄せました薬と申し上げましたのに!」  (やまい)を感じさせない国王陛下の威厳。  王太子は、明らかに動揺していた。 「王太子に伺いたい。遠方とは何処なのでしょうか。言えぬ理由があるのでは? それから、いまだに元第五王子の(かたき)の地方貴族を処させないのも怪しいですな」  第二王子だ。  母からは、王太子を除く王子は皆様、第五(父上)にお優しかったと聞いている。 「そう、王太子の口添えで、衣食住ほか、様々な便宜が図られます特別牢に入れられて。恐れ多くも、森の魔女様からの証拠がございますのにねえ。我が国としては、あり得ぬ行いです」  これは、第三王子。 「だから……」  王太子の挙動は、さらに怪しくなってきた。 「王太子が、頻繁に特別牢に通われていることは確認済です。たびたび、牢兵達を遠ざけたあとで、地方貴族から何かを受け取っていますね。参考までに、あの地方の特産は、毒にも薬にもなる薬草でしたな」  第四王子も続いた。  どうやら、王子達は魔女様の指示で行われたネエネエたちの調査のあとを継いでくれていたようだ。 「それは……」 「見苦しいぞ。私が、お前が渡してきた薬を毎日服用していたことは明らか。身罷(みまか)りし後に、この身体を調べてもらうことで、お前の悪事が露見すると思うていたが……」  国王陛下は王太子を強い眼力で睨みつけたのちに、一度、言葉を切った。 「まさか、生きているうちににお会いできまして、白日のもとに示して頂けますとは……ありがとうございます、魔女様の御遣い様」  うって変わり、優しい声音であった。  そのまま、国王陛下が頭を下げようとするのを、アカゴは慌てて止める。 ……お気づきでいらしたのだ、この方は。  そして、兄王子様方も、(弟王子)の敵を滅さんとしてくれていた。  アカゴは、感に堪えずにいた。  そこに、いつの間にか近くに来ていた王太子が、腕を伸ばす。 「お前のせいで……おい、その目は、まさか!」  アカゴの目を正面から見た王太子が、顔色を変えた。 「忘れるものか。その蒼い目。心を見透かすような、第五の……! 王子でなくなる時、あいつは、あの地方の管理職を求めた。俺があの地方貴族と組んで、毒草を横流ししていたのに気づいていたんだ! だから、裏で手を回し、護衛を減らし、奴を……それなのに、息子である貴様が、奴の息子があ! 俺を……。やめろ、その蒼い目で、俺を見るな!」  王太子は半狂乱になった。  武器などは携えてはいないようだが、毒草を液体や粉状にして隠していたりしていたとしたら、ひじょうに危険である。  それでも、アカゴは魔法を使うのをためらった。  身を守る術、と魔女の許しを得、基礎のみネエネエに教わり、書は多く読んでいるが、慣れぬ自分の魔法では国王を、祖父を。  巻き込んでしまうのではないかと逡巡したのだ。 『せめて、お祖父様をお守りせねば……』  攻撃魔法ではなく、防御魔法を、と思ったその刹那。  蒼い、蒼い目が。見えた。 『ありがとう』そう聞こえた。  それとともに、国王の周囲には、不思議な魔力の輪が。防御魔法だ。  これならば、お祖父様は大丈夫だ。 『我が父を守ってくれた、息子(お前)は私の誇りだ。ああ、がおみえになるね。妻も、お前も。幸せに。ずっとずっと、愛しているよ』  ちちうえ。  疑うことなど、あるはずもない。  魔女様の魔石のお力か。  お優しい、蒼い色の目を持つ方。   最初で、最後の、父との邂逅。  泣いてはいけない。父上をお見送りせねば。  強い心で、アカゴは口を結ぶ。  そして。  そうだ。  次には、あの方がお見えになるのだから。 「に何をするか!」  響く声、そして、王太子に向かう強大な氷の魔法。  誰が、魔法を。  知っていたのは、父以外には、アカゴだけ。  然しながら。  ……誰が。  それは、火を見るより明らかだった。
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