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少年と母
「大きくなって……」
母は、ひと目でアカゴが我が子であると気づいた。
髪と目の色もそうだが、恐らくは、魔力。魔女の証を示す必要もなかった。
アカゴは、無意識に他者の魔力を吸収していたらしい。魔力持ちの母からは特に多く、ということだったのだろう。
魔女のそばで成長した今、そのようなことは、もう生じはしない。
「ありがとうございます」
自分を生んでくれた人。
そして、自らを顧みず、魔力を惜しみなく与えてくれた母。
深く、深く、感謝している。
だが。
「母上、申し訳ありません。僕は……」
「分かっております。魔女様によろしくお伝えしてちょうだい。ただし、魔女様と、従魔殿のご迷惑になってはいけませんよ」
さすがは、魔女に守られた国の魔術師。
魔女の隣に立ちたいという息子が、誇らしいのだ。
「はい。では、母上、魔力をお返し申し上げます」
薄い白色の魔石に、込められる限りの魔力を。
「こちらをお持ち下さい。魔女様から頂きました特別な魔石です。母上、ありがとうございました」
魔石を渡された母は、実に誇らしげだ。
「こちらこそ、ありがとう。貴方に渡した以上に返された気がいたします。これで、薬の調合が更に……」
「国王陛下のお身体を癒す薬を、主様でしたらお作りになれますわね」
あまりの嬉しさに、つい、言ってしまったのであろう。
母の侍女は、申し訳ございません、と深く頭を下げる。
「国王陛下はご体調が? 魔女様はそのようなことは仰ってはおられませんでしたが」
侍女は、真の忠義者。主の生命を守り、そして、主の子の運命の端緒を開いてくれた者。
それは、母も、アカゴも、熟知し、感謝していた。
よって、母は、侍女を諫めることなく、アカゴに説明をする。
「私は今、薬草園付の魔術師として働いていて、陛下の御為の薬を納品させて頂いているの。ご用命の品が全て、ご体調が悪い方が飲まれるものばかりなのよ」
国王陛下のための薬に、万が一があってはならない。
第五王子の妻であったものに取り扱いを任せるというのは、よい案と言えよう。
母も、今でも愛する夫の父の体の為に常以上に集中して調薬をしている。もちろん、皆の王のためにも。
「そうですか、国王陛下……」
魔女も、ネエネエも、国王については特に何も言ってはいなかった。
ただし、新聞に書かれている程度のことは、アカゴも知っている。
そもそも、森の魔女は王宮には深く拘わらない。王宮も、貢ぎものの選定のみ。そういう不文律らしい。
だが、自分なら。アカゴは思った。
正直、血は繋がってはいるのであろうが、国王陛下は、アカゴにとっては母ほどには強く思う方ではない。
だが、これが、父上ならどうなさるだろうか。
母上と、胎児の自分を守り抜かれた方。
ご自分の父上であられる方に、と可能なかぎりのことはなさるだろう。
「母上、これから、王宮に伺います。もしかしましたら、陛下のご体調を回復申し上げることができるかも知れませんから」
きっぱりと、アカゴは言った。
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