僕とあなた

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僕とあなた

「ネエネエ、そして、魔女様。アカゴ、ただいま戻りました」 『お帰りなさいだねえ』 「……何故?」  突然の別れから、二年。  ネエネエと魔女の言葉は、対照的だった。  アカゴは、破顔。 「こちらは、お土産にございます。母が育てました薬草茶の茶葉に、国王陛下(お祖父様)からは……」  小さな背嚢(はいのう)には、たくさんの品が。  背嚢の中に亜空間を形成し、多くの品を入れてきたのだ。恐らく、物質の重量も変えていたのだろう。  魔力も、かなりの量だ。  紅玉色の髪は艶やかで、蒼の目もきらきらとしている。  魔法を用いるものとしても、王族としても。  どちらにしても、その美しさ、魔力。人目を引くであろう存在だ。 『空間魔法や重量魔法が使えるとは、すごいですねえ』  大きくなった、などではなく、魔法の成長を褒めるネエネエ。さすがの、もう一人の母である。 「。僕は、世界で一番素敵な魔女様の弟子だから」  アカゴは、実に嬉しそうだ。 「いや、あれは……言葉のあやで、しかも、アカゴ、は呼び名だ!」  珍しく動揺する魔女に、ネエネエが言う。 『魔女様、本人が名前と認識したら、それは魔女様からの贈り物、弟子と認めし証ですねえ』 「あなたのいるところが、僕のいるところです。魔女様がここをお離れになる時は、一緒に参ります」 「いや、それはならぬ! この森には魔女が、魔術師が必要ぞ!」 「大丈夫です、これから修業をして、必ず転移の魔法を習得いたしますから」 「そんな魔法、どこに……」 「ございます」『存在しますですねえ』  確かに、伝説級の大魔法ではあるが、学んではならぬとされた、禁じられた魔法ではない。  使えるもの、指導できるものが少なすぎるがために、伝説級とされているに過ぎないのだ。 「魔女様、僕を弟子にして下さい。そして、僕が一人前になれましたら、どうか僕を、恋愛対象として、見て下さい。お願い申し上げます」 「私は、211歳だぞ? 魔女や魔術師でも、せいぜい半分の年齢差でないと、非常識だ!」  これは、その通り。  魔力のためにほぼ老いることのない魔女、魔術師。それでも、常識というものは存在する。  たとえば、200歳の魔女が80歳の弟子に恋愛感情を……などということがあれば、魔女としての資格が剥奪されるほどの大問題となる。 「知っております。僕は今、10歳。もう自分の道を選べる年齢です! これから190年かけて修業をいたします。そうしましたら」 『401歳と200歳なら、半分と言って差し支えないですねえ』 「……」  確かに。  先日も、魔女はネエネエとともに505歳の魔女と251歳の魔術師の結婚の宴に招かれたばかりだ。  401歳と200歳に文句を言うものは、少なくとも、魔女や魔術師の中には、存在しない。  魔女が、どう言い返そうかと考えていると。 「あなたのいるところが、僕の居場所です。魔女様(あなた)を、お慕いしております」  二年前よりも、思いを込めた言葉。  これは……さすがに。  真剣なことが、魔女にも伝わる。  ……仕方ない。 「アカゴ、とやら。弟子に相応しいところ、見せてみよ!」 「はい!」  アカゴは、弾けるような、快活な返事をする。  魔女は、ネエネエにアカゴの部屋の清掃を命じた。 『畏まりましたですねえ』  清掃の準備を始めたネエネエは、もふもふとした黒い魔羊毛を、嬉しげに揺らした。 『良い雰囲気ですねえ』  ねええー。  魔羊ネエネエは、一鳴き。  魔女の森は、今日も、平和である。  それは、今までも、これからも、ずっと。 ※こちらにて、本作は完結となります。  誠にありがとうございます。  背嚢とは、リュックサックのことです。
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