静かなパニック

1/6
前へ
/6ページ
次へ

静かなパニック

私は昔から、考えていることがよく分からないと言われてきた。 表情があまり変わらないせいなのだけれど、だからって感情がないわけじゃない。 そんな私でも、顔に出ない方がいい時もあって。 幼いころから暗い場所が苦手な私は、高校生になった今でも暗闇が怖い。 夜に出歩くなんてもってのほかだし、突然の停電でも心臓が縮み上がる。 だけど、パニックになっているのを見せて相手を心配させたくない。こういう時に表情筋が死んでいるのはむしろラッキーだと思う。 「でさ、その階のボス倒すだろ? そしたら隠し扉があんの! 素材がめちゃくちゃ手に入るから行ってみ、マジで!」 なんて楽しそうにゲーム情報を教えてくれるのは、前の席に座っている日南(ひな)隆良(たから)君。 無表情がデフォルトの私とは違って、コロコロと表情の変わる人だ。ゲームの話が合うため、よく話しかけてくれる。 「昼休みにやってみるよ」 「おう! 俺もやるから協力プレイしよーぜ。その方が早く終わるし!」 「助かる」 私の短い答えにも、日南君は満面の笑みで頷いてくれる。 その反応が嬉しくて、私はいつしか彼に惹かれていた。 だから、彼にだけは。日南君には、誰よりも心配をかけたくなかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加