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1.出会い
「んしょ、っと・・・」
四つん這いになり、上体を伏せ、自由になった腕で尻の肉を広げる。
「はい、どーぞ」
僕の恋人、住良木恋はごくりと喉を鳴らした。今から男の尻の穴を舐めさせられるというのに、興奮しているらしい。
「あっ・・・、ひうっ、うううんっ・・・」
ねっとりと、熱い舌で舐め回される。
「は、あはっ! ご褒美、貰えて、んっ、嬉しいのかい? そんな、べろべろ、ああっ、舐め回して・・・」
恋は肉体的な快楽をあまり感じられない。だから精神的な快楽を得るため、僕に奉仕する。
僕の名前は櫻田蓮。国民的俳優と一般人女性が結婚して出来た子供。身長156cm、体重48kg、襟足を少し伸ばして髪を巻き、薄く化粧をしてネイルにも気を使っている。
恋人の住良木恋。複雑な生い立ちを抱えているが今はごく一般的な家庭の一人娘。身長186cm、体重は知らない。後ろに一つで結わえた髪、安物の靴、短い爪は清潔感はあるが洒落っ気はない。
「もう解してあるから、挿れていいよ・・・」
偽りの肉塊が僕の尻の穴に挿入される。
「あああぁああああっ!!」
快楽にシーツを握る。
「きもちいっ! あうっ、い、いきなり激しっ!」
恋は無言でガツガツと僕を抱く。
「ああっ! ぜ、前立腺に当たってっ・・・!」
ぴた、と恋は動きを止めた。
「前立腺?」
「・・・し、子宮に、当たってる」
そう言い直すと、恋は再び腰を振り始めた。
二度、体位を変える。
正常位で、僕は恋に抱っこをせがむ。
「あぁあっ! すきっ! 恋! 僕のこともっと犯してっ! 壊してえっ!」
恋の瞳に映る僕は、情けない顔をしている。若者に人気の雑誌の表紙を飾るモデルの僕が、こんな顔をしているなんて世間に知られたら、もう生きていけない。そうなったら恋に養わせてやろう。僕の恋。僕の住良木恋。誰にも渡さないしどこにも行かせない。
「あぁあぁああああーっ!!」
激しい快楽の末に、果てる。
「ねえ蓮くんてさー、住良木さんと付き合ってるの?」
大学の講義室。勝手に取り巻きになっている名前も知らない馬鹿女がそう言う。
「付き合ってない」
もっと深い関係だ。他の取り巻きも『えー?』などと馬鹿丸出しである。
「でもさー、なんかこの前、騒ぎ起こしてたよね? ほら、住良木さんのストーカー女の、なんだっけ名前?」
「確か、馬場園芽衣子さん?」
「いつも白かピンクのふりふりふわふわ着てる、あの子だよね?」
「有名だよね。あの幼稚園児」
嘲笑が気持ち悪い。
「そーそー! 自称『めいちゃん』ね。『めいちゃんのれーちゃんかえしてー』って言われてたじゃん? 蓮くん。やっぱ付き合ってるのお?」
「付き合ってない」
「でもさー、」
「君馬鹿なの?」
僕が苛ついてそう言うと、辺りがしんと静まり返った。
「何度も同じ質問しないでくれる? 『でもさー』は口癖? 何度も何度も同じこと繰り返して、うんざりだよ」
「あ、ご、ごめん・・・」
仕事に行くために一度家に帰らなければいけない。荷物をまとめ、大学を出ようとした時だった。
「めいのれーちゃん返してっ!」
間延びした舌っ足らずな声が響いた。廊下の真ん中で馬場園芽衣子が両手を広げて行く手を塞ぐ。
「あのさ、何度も言うけど、住良木さんは『モノ』じゃないからね?」
「れーちゃんめいのなのっ! 返してっ!」
「僕はたまたま現場に居合わせただけだ。勘違いされても困るよ」
「そんなの関係ないっ!」
「あるよ」
ざわざわと辺りがどよめく。
「いやあーっ!! いやっ!! いやっ!! れーちゃん、めいのおーっ!!」
『い』に濁点を付けて馬場園が泣き崩れる。
「邪魔。じゃあね」
可愛い私、か弱い私が泣いているのに、どうして誰も味方しないの、とでも思っているのだろう。
吐き気がした。
僕は低い身長と中性的な容姿、そして父の七光りを武器にモデルとして仕事をしている。仕事の人間は全員気持ち悪く感じてしまう。苦痛の時間を乗り越えて、オートロックのマンションに帰った。
「おかえり」
恋が食事を作っている。この光景を見ると、産まれてきてよかった、生きていてよかったと思う。
「今日はなに?」
「ネギの青いところを豚肉で巻いて焼いたヤツと、胡瓜と柚のサラダ。いつもの味噌汁」
「そう」
化粧を落とし、シャワーを浴びて着替える頃には、食卓には出来たての料理が並んでいる。ご飯も炊き立てだ。
『いただきます』
二人で声を揃えて、食事を始める。
美味い。
恋は両親が再婚するまで働く母を支えていたのと、本人が器用で努力家、加えて好奇心旺盛なのもあって家事の腕は一流だ。僕の両親とは違って。食事を終えると、冷凍のベリーで作ったスムージーを飲む。
「恋」
「なに?」
「本当に大学、辞めちゃうの?」
恋は顔を曇らせた。
「たった一人の人間のせいで辞めるなんて馬鹿げてる」
「そう、だね」
「僕が守ってあげるからおいでよ」
恋は応えなかった。
「・・・ハン、まあ、いいけど」
「今から動いてなんとかなるかな」
僕はスムージーをテーブルに置いた。
「なる。証人だって居るじゃあないか」
「・・・『遅い』って怒られないかな」
「そんなこと言うヤツが居たらはらわた引き摺り出してやるよ」
「おっかない」
恋は力無く笑ったので、僕は仕事用の笑顔で返してやった。
この関係が始まったのは、一ヵ月前。
馬場園芽衣子のおかげだ。そして馬場園芽衣子のせいである。
「いい加減にしろよッ!!」
講義室に住良木の声が響く。
「なんで私がお前の留年に付き合わなくちゃいけないんだよッ!!」
「でもねっ? れーちゃんは、めいと、ずーっと一緒なんだよっ?」
「ふざけるなッ!! 私はお前のために産まれてきたんじゃないッ!!」
住良木が講義室を出ていった。
「れーちゃん待って! れーちゃんはめいとずっと一緒なのおーっ!」
馬場園も講義室を出ていった。
「なにあれ?」
異様な光景に静まり返っていた講義室が、僕の声で騒がしくなり始める。
「蓮くん知らないの? 住良木恋と、そのストーカー女の馬場園芽衣子」
「知らない」
「なんかね、あの二人、幼稚園からの幼馴染なんだけど、住良木さんは嫌がってるのに馬場園さんが住良木さんのこと好きで好きで堪らないーって感じなんだってー」
「馬場園さんの恰好、見たでしょ? いっつも白かピンクのふりふりふわふわ着てるの。自分のこと姫かなにかだと思ってるんだよ」
「住良木さんは背が高いからね。あの女、馬鹿だから、住良木さんのこと男だと思ってるんじゃないの?」
「私の王子様ぁ、ってね」
「試しに住良木さんに話しかけた子が馬場園さんに引っかかれたって話だよ」
「ふうん」
今の話から推測するに、馬場園の留年に住良木が付き合わされそうになって、堪忍袋の緒が切れたのか。
「住良木さん、あの勘違い幼稚園児に殺されたりしちゃうかもね」
誰かが言ったその言葉に、妙に嫌な予感がした。
だからかもしれない。
数日後、雨の日、僕は偶然、住良木を見つけた。
横断歩道の前に立つ彼女は、ふらふらと身体を揺らしていた。それが今にも飛び込みそうに見えて、僕は思わず息を飲んだ。そして再び、ヒュッ、と息を吸い込んだ。馬場園が両手を前に翳して、住良木に忍び寄っていたからだ。
「危ないッ!!」
馬場園が住良木を突き飛ばした。信号は赤。車道には迫りくる大型トラック。僕は思わず住良木の腕に抱き着いて、後ろに思いっきり引っ張った。どすん、二人分の倒れ込む音。
「なんで・・・れーちゃん・・・」
突き飛ばした張本人の馬場園がぽかんとしている。
「れーちゃんめいのなのっ! 触らないでっ!」
ひゅーっ、ひゅーっ。
「れーちゃん大丈夫!? めいが守ってあげるからね!」
「・・・なに言ってんの、君」
ひゅーっ、ひゅーっ。
「貴方、誰!? れーちゃん嫌がってるでしょ! 離れてよっ!」
「君が突き飛ばそうとしたんだろッ! 僕は見てたぞッ! 防犯カメラだって調べれば証拠が出てくるさッ! 今すぐ警察に、」
「めい悪いことしてないもんっ!」
馬場園が泣き始める。
ひゅーっ、ひゅーっ。
なんだ、こいつは。
ひゅーっ、ひゅーっ。
なんなんだこいつは。
ひゅーっ、ひゅーっ。
なんで突き飛ばして、
いや、
殺そうとしておいて、被害者面しているんだ。
「れーちゃんの馬鹿っ! めい知らないっ!」
馬場園は走り去っていった。住良木は過呼吸を起こしている。
「君、大丈夫?」
住良木は僕の腕の中で震えている。この時、僕は初めて、恋の顔を見た。大きいのに凛とした目元、蝶が羽搏くような睫毛、整った鼻、形の良い唇。しかしその唇は紫色だった。
「警察を、」
住良木が僕の服を掴み、首を横に振る。
「どうして、」
「もう、何度も、相談、したけど・・・」
それ以上は息が苦しくて言えないらしかった。警察は駄目だ。何度も相談したらしいのに対処しなかったのか、対処してこの結果なのか。救急車も、きっと嫌がる。
「僕の家、おいでよ」
怯える瞳で住良木が見つめる。
「僕の家においで」
震えながらも、頷いた。肩を貸すには身長差がありすぎるので仕方なくゆっくり歩く。家がすぐ近くでよかった。そういえば新作のコンビニスウィーツを買いにきたのに、こんなことに巻き込まれてしまうだなんて。オートロックのマンションなので馬場園が追撃してくることは恐らくないだろう。
「座って」
僕はソファーの上に散らばっている服を適当にどかしてスペースを作り、住良木を座らせた。キッチンでスポンジと洗剤を探し、コップを洗い、水を汲む。慣れないことをしたので時間がかかってしまった。住良木に水を渡す頃には、彼女はかなり呼吸が落ち着いていた。
「ありがとう・・・」
僕は隣に座る。
「君、確か、住良木さんだっけ」
住良木が頷く。
「・・・部屋の汚さは気にしないで」
服と化粧品と装飾品とゴミで部屋は溢れている。
「住良木さん、なにが、あったの?」
「あの、私・・・」
「ゆっくり、ゆっくりね」
涙を零しながら、ぽつりぽつりと語り出す。
住良木と馬場園は幼稚園の頃からの幼馴染。馬場園はお金持ちの家のお嬢様で、住良木は未婚の母しかいない。その母に心労を掛けないよう、嫌いで嫌いで仕方がない馬場園との付き合いを長年続けていた。馬場園は幼稚園の頃から一切変わっていないらしい。馬場園の住良木への執着は常軌を逸していた。住良木が母に『高校だけは行っときなさい』と言われて進学した、偏差値の低い高校へ、両親の反対を押し切って一緒に進学するほどに。
住良木が高校一年生の頃に、母が結婚する。新しい父親はとても良い人で、住良木が諦めていた大学進学の夢を叶えてくれた。住良木は必死で勉強した。馬場園は勉強ができる方ではないので、大学に行けば解放されるか、少しは楽になるかもしれないと楽観視していたのが間違いだった。馬場園も必死で勉強して、住良木の大学に着いてきた。しかし馬場園は単位が足りず、留年が決定する。
『れーちゃんもめいと一緒に留年してね!』
そう言われて、ついに堪忍袋の緒が切れたという。警察に何度も相談しに行ったが、
『被害が出ていないから』
『同性だし』
『長年友達だったんでしょ?』
と言われて、まともに相手にしてくれなかったらしい。もう大学を辞めて引っ越そうかと考えて絶望していたところを、馬場園に突き飛ばされたのだという。
「私、どうしよう・・・。警察は頼りにならないし、家も知られてるし、カプセルホテル渡り歩くのだって、もし隣に居たらと思うと怖くて・・・。もう、もう、どこにも、居場所がない・・・」
「今回は僕が目撃者として警察に付き添ってあげるよ」
「櫻田さん、ありがとう・・・」
「あ、その前にシャワーを浴びよう。二人共、雨の中で座り込んだからぐちゃぐちゃだ。このままじゃ風邪引いちゃうよ。着替えはなにか探しておくよ。タオル使っていいから先に浴びてきて」
「えっ、でも、」
「僕、同じことを繰り返すの嫌いなんだ。心配しなくても襲ったりしないよ。返り討ちに合いそうだし」
「あ、ああ、まあ、そうだね、うん・・・」
自身の小さな背が悔しくなる。
「浴室はそこだよ」
「ありがとうございます・・・」
住良木が浴室に向かい、数分。なにか着替えになりそうなものを探していた僕は、はっ、と気付いた。浴室には『おとなのおもちゃ』を大量に並べて保管している。
「あっ・・・、あっ!!」
慌てて浴室に駆け込むが時すでに遅し。
「さ、櫻田さん・・・」
「あっ、あっ」
住良木は顔を真っ赤にして口元をおさえている。
「ぼっ、ぼ、僕は君の命の恩人だぞ!? よ、弱味を公表したりなんてしないよなあ!?」
「よ、弱味っていうか、あの・・・」
「そうだよ!! 否定しない!! 寧ろ肯定してやるね!!」
「えっ、じゃあ男性が好きってこと・・・」
「違う!! 僕の、オ、オナニーは、ちょっと特殊ってだけだよ!!」
「手伝わせて」
「はっ?」
「手伝いたい」
なに言ってるんだこいつ。
「わ、私、昔から、男の人を虐めたいって思ってたの。櫻田さんは命の恩人でしょ? だから、手伝わせてよ」
「な、なに、言って・・・」
「自慰なんでしょ? 性交じゃない。手伝わせて」
「す、住良木さん、目が怖いよ。君のそれって多分『吊り橋効果』って言って、」
「恐怖のドキドキを恋のドキドキと勘違いすること、だよね?」
「ほ、本気かよ・・・」
「じゃあ、お礼。お礼に」
「い、いらな・・・」
「本物の指で弄られたり、舌で舐められたり、されたくない?」
正直、されたい。
「櫻田さん・・・」
破滅が背後にある快楽は、これ以上なく気持ち良かった。
「じゅ、準備を、するから、先にシャワー、浴びてよ・・・」
僕がそういうと住良木は頷き、後ろを向いて服を脱ぎ始める。僕は慌てて寝室に行き、道具を整えた。そして住良木が着られそうな服を探す。フリーサイズの洒落たシャツと、柔らかい素材のパジャマのズボン。下着はない。
「こ、これ着て待ってて。下着は無いけど・・・。その、僕は準備に時間がかかるから・・・」
丁寧に、念入りに。丁寧に、念入りに。
「・・・お待たせ」
「今更だけど部屋汚いね」
「本当に今更だね! なんでこのタイミングでっ!」
「櫻田さん、結構大きいんだね」
「・・・見たことあるの?」
「動画で何本も」
「君イカれてるよ・・・」
僕はベッドに寝転ぶ。
「キスはしないで。覆い被さって」
「うん」
住良木が僕に覆い被さる。凄くドキドキする。
「住良木さん、恋って名前だったっけ」
「そう。字は違うけど音が同じだね、蓮さん」
「・・・恋、君は『サド』の女王様みたいに男を甚振りたいの?」
「うーん、どうだろ。私、肉体的な快楽ってあんまり感じないんだよね。だから蓮さんみたいな顔の良い男を善がらせて精神的な快楽を得たい、かも。奉仕したいのかな」
「じゃあ、僕の言う通りに奉仕を」
「わかりました」
「敬語はやめて、蓮って呼んで」
「蓮、どうすればいい?」
「・・・ち、乳首、撫でて」
するり、と指がひと撫でしただけで、今までにない快楽が身体を走る。
「ああっう!」
「ご、ごめん」
「やめないでっ! 続けて・・・」
ヤバい。乳首がガチガチに勃ってる。
「ふあっ、う・・・。ああっ、気持ち良い・・・」
「蓮、可愛いね」
嬉しいと感じてしまう。
「跡は、つけないで。仕事に障るから・・・」
「ずっと撫でてるだけでいいの?」
「抓んでみて・・・」
ふわふわとしか触られていないのに、物凄く気持ち良い。
「ふあああっ! なにっ、これ、すごっ、いい・・・!」
「可愛いね、蓮」
「ひとさしゆびでえっ、あぅ、かりかり、ひっかいて・・・!」
僕は快楽に感電した。
「あぁあぁあっ!! いっ、イくっ・・・!!」
呆気なく果ててしまった。
「おお、凄い・・・。めっちゃくちゃ気持ち良い・・・」
恋は顔を蕩けさせている。
「ねえ、お礼、これで足りる?」
「・・・足りない、かも」
「次はどうしてほしい?」
性器を触ってほしいなんて、恥ずかしくて、言えない。僕はなにをしているんだろう。恋とは、殆ど初対面のようなもの。それなのに、覆い被されて、乳首を触られて、それでイッてしまうなんて。
「君が、考えて、動けよっ・・・」
「そう? じゃあ・・・」
するり、と僕の両の脚の間に手が降りていく。
「あヒッ!?」
恋が触ったのは男性器ではなく、尻の穴だった。
「あっああっ、あうぅ・・・」
ヤバい。これ以上の快楽は、最早麻薬だ。
「蓮、四つん這いになってよ」
「は、はい・・・」
震える身体でベッドに四肢をつく。
ふぅ。
恋が僕の尻の穴に息を吹きかけた。
「ひゃうっ!?」
「あの馬鹿女に人生めちゃくちゃにされたの、今夜でお釣りがくるかも」
「馬鹿なこと言って、うあぁあっ!?」
嘘、だろ。
「あぁ・・・だ、だめぇ・・・」
今の蕩け切った声を聞いて『駄目』と判断するヤツは居ないだろう。男の僕が女の恋に尻の穴に舐められて、善がり狂っている。
「きもちいっ・・・おっ・・・はああっ・・・」
この時の経験が恋にとって忘れられないものになってしまったのか、恋は僕を抱く時は必ず尻の穴を舐めるようになってしまった。
「蓮、指、挿れたい」
「そこの、ローション・・・」
にちゅにちゅと指にローションを絡める音が響く。ヤバい。指が、本物の指が今から僕の尻の穴に挿入される。そんなことされて、気持ち良かったら、もう僕は恋を手放せなくなる。そうわかっているのに。
「あっ、あっ・・・!」
「痛くない?」
「おっ・・・おおおっ・・・!」
「痛いの? 抜くね?」
僕は必死に首を横に振る。
「ふぎっ・・・ううぃ・・・」
「あはっ、中、温かくて、柔らかくて、気持ち良い」
「指、あうっ、ふ、増やして・・・」
「わかった」
自分の指では得られなかった異物感。初めての強烈な快楽。僕の反応を伺いながら、指が身体の中を探る。
「うんんああっ・・・!」
こり。
「はああああっ!!」
「おっと。痛かった?」
「ちがあっ・・・。そこ、ぜ、前立腺・・・」
「ああ、ここが」
こりこり。
「ちょおっ、やめえっ・・・!!」
こりこりこりこり。
「あっぐっ!! おおっ、イぎっ、イグぅうぅ!!」
呆気ない、二度目の射精。にゅるり、と恋が指を抜く。それがまた気持ち良い。僕の四肢は身体を支えていることができなくなって、横向きに倒れる。
「蓮、お礼に足りるかな」
「も、だめぇ・・・」
「足りない?」
「んん・・・。た、足りない、けど、今は、もう・・・」
「蓮のお礼に足りるまで、なんでもするよ」
それ以来、恋は僕の家に匿われている。汚かった部屋は恋が綺麗に掃除してその状態を維持し、デリバリーばかりだった僕の食生活は恋の手料理に変わった。今はインターネットで買い物ができるので便利な時代だ。
「恋」
「なに?」
「警察に行こうか。このままだと、馬場園の望み通り、恋は単位が足りなくなって、馬場園と同じ年数、大学に居ることになるよ」
「・・・そうだね、うん」
「警察に行ってどうにもならなかったら、ずっと僕の家に居てよ」
「えっ!」
「なに? 行く宛てがあるなら別にいいけど」
「あ、いや、ううん。そ、そうしようかな」
「・・・それでね、恋。恋の行動の結果、馬場園に接近禁止命令が出されたら、彼女は退学することになる。それでも彼女は恋のこと諦めないと思う。だから今まで通り、外には出ないで。いい?」
「わかった」
「じゃ、明日。警察に、二人で相談に行こうね」
「うん・・・」
歯切れが悪い恋に苛々する。
「じゃ、ご褒美あげようかな」
恋はだらしない顔をしながら真っ赤になる。
僕の恋。僕の住良木恋。
恋が嫌がるから言わないだけで、
恋はもう僕のモノだよ。
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