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2.魔物
馬場園が退学処分になった。
住良木恋に対する長期間のストーカー行為、突き飛ばして殺そうとした映像が防犯カメラに多数、大学での問題行動の数々から住良木恋に対する接近禁止命令が下され、馬場園は退学。最後に『今後二度と住良木恋に近付かない』と自身の両親と恋の両親の前で宣言させることで事態は終結した、と、思いたい。
「おはよう蓮くん! って、えっ?」
講義室。僕の隣に恋を座らせる。恋は俯いている。
「えっ? 住良木さん、なんで蓮くんの隣に座ってるの?」
「恋が僕の恋人だからだけど」
「えっ? えっ!? でも蓮くん、住良木さんとは付き合ってないって言ってたよね??」
「うん。付き合ってない。愛し合ってるから」
「ヘっ・・・?」
勝手に取り巻きになってる女達がぴたりと固まった。野次馬も静かになって僕達を見ている。
「す、住良木さん、蓮くんの言ってること、ほんと、なの?」
「あの、まあ、そうですね・・・」
恋がぎこちなく笑う。
「え、あの、でも、馬場園さんは?」
「彼女は、その、」
「退学になったよ」
「エッ!?」
ざわざわ。ざわざわ。
「恋に対する接近禁止命令が出たのさ。だから大学には通えない。辞めさせられたってわけさ」
「ど、ど、どうしてそんなことに? ていうかなんで蓮くんと住良木さんが付き合ってるの?」
「しつこいね君。僕は何度も同じことを言うのが嫌いなんだよ。それにさ、他人の事情に首を突っ込み過ぎじゃないの?」
「だ、だって・・・」
それきり、取り巻きの女は黙り込む。
「蓮くん、隠さないの? モデルなのに、一般人の恋人が居るとかさ・・・。まずいんじゃないの・・・?」
ぽつり、誰かが呟いた。
「僕の父も一般人女性と結婚してるけど? それに隠す必要ないだろう。やましいことなんてなにもしてないんだからね」
「そ、そうだね、アハハ・・・」
乾いた笑いと共に取り巻きは蜘蛛の子のように散っていった。
「いいの? こんな、敵を作るようなことして・・・」
「ハン、あいつらは元から敵だよ」
「だ、大胆だなあ、蓮くんは・・・」
君にだけは言われたくない、という言葉は飲み込んだ。
平穏な日々は一週間しか続かなかった。
二人で大学の廊下を移動中に、馬場園が現れたのだ。
「れーちゃんっ!!」
恋はあっという間に混乱して過呼吸になりかけている。
「れーちゃんっ!! 勘違いしてるんでしょっ!? 勘違いしてるの許してあげるよっ!! だからめいに謝ってっ!!」
「ちょっとそこの君、警備員呼んできて」
「ええっ!? ああ、はい・・・」
僕は野次馬の中の男に声をかけた。男は走っていく。
「恋、跪いて」
「ひぇ、え?」
「僕の命令が聞けないの?」
「ひ、跪く、跪く・・・」
ぶつぶつ言いながら恋が跪く。
「れーちゃんっ!! なにしてるのっ!! そんなヤツの言うこと聞いちゃ駄目っ!! 目を覚ましてれーちゃんっ!! めいの言うこと聞いてっ!!」
僕は恋の顎をすくいあげる。そして唇を重ね合わせた。
「れー・・・ちゃん・・・なに・・・なにしてるの・・・? 男の人とちゅーするなんて、汚い、汚いよ・・・めいの、めいのれーちゃん・・・!!」
「馬場園君、住良木恋は君のモノじゃないよ。僕の恋人」
恋が僕に抱き着く。震えている。僕は恋の頭を撫でた。警備員が駆け付ける。馬場園が暴れた。いいぞ、もっと暴れろ。事が大きくなれば大きくなるほど恋は僕に依存する。そこまで考えて、ふ、と気付いた。僕がすっかり恋に依存していたことに。
「うわああああ!! んああああああ!! るわああああああ!!」
醜悪な馬場園の叫び。不謹慎にもその様子を携帯で撮影している者も居た。
その動画を見たのだろう。
自宅で恋と寛いでいると、プライベート用の携帯に父から電話がかかってきた。
「もしもし」
『おう、お前、女ァできたの?』
こいつの声を聞くと怒りで鳥肌が立つ。
「もう噂になってるの?」
『ハハ、『血は争えない』ってな。なに、相手の女、えらくデカいね』
「用件はなんだよ」
『いや、女ができたんなら立ち回り考えろって言いたかっただけ。ああ、相手の子、料理上手い?』
「僕の女の料理を他の男に食べさせる気はない」
『ハハハハハ、ごめんごめん。じゃあな』
電話は切られた。
「あほくさ」
「蓮くん・・・」
「なんだい」
「ああ、いや、その・・・」
「ハッキリ言いなよ」
「私のせい、でもあるのかな、芽衣子のこと・・・」
「はあ?」
恋は溜息を吐いた。
「私がずっと『めいのれーちゃん』で居続けたからこんなことになったのかな、って・・・」
「そうだよ。君のせいだよ。馬鹿、クーズ」
恋は弾けるように僕を見て目を見開いた。
「誰かに責められることで安心するなら僕が恋を責めてあげるよ」
僕はにこりと笑ってやった。
「僕は恋が悪いとは思わないね」
「断言しちゃうんだ・・・」
「僕はこういう物の言い方しかできないよ」
「ふ、あはっ。スッキリするよ・・・」
「ねえ、恋。成り行きで始まったことだけど、僕、恋のこと愛してる」
「ひぇえっ、えっ・・・」
「恋はどう? 僕のこと愛してる?」
「ま、まだ、わかんない・・・」
「なら、わかるまで僕の傍に居てよ。僕のこと嫌いになったらここを出ていけばいい。でもそれまではここで暮らしてほしい」
「はぅ、はい・・・。よ、よろしくお願いします!」
恋が頭を下げる。
「よろしくお願いします」
僕も頭を下げて、二人で笑った。
結果として、恋の両親、特に父親が馬場園に怒り狂い、馬場園は精神病院に送られることになった。馬場園の父親は大手企業の役員、それも人事部の部長だというのだから笑える。娘のせいでクビになったらしい。エステにサロンと悠々自適の専業主婦生活を送っていた母親も、近隣住民や『ママ友』の噂話の重圧に耐えられなくなり、二人は持ち家を手放して娘の芽衣子が入院している病院の近くに引っ越したそうだ。どっちが娘の面倒を見続けるかで揉めに揉めて、他の要因も重なって、二人は離婚したくてもできない状況らしい。
ざまあみろ、だ。
「恋、なに緊張してんのさ」
「あの、ごめん、私、こういうこと芽衣子以外とするの初めてだから・・・」
「カフェでお茶したこともないの?」
「友達居ない・・・」
「ああ、ごめん」
僕は溜息を吐いた。
「その『芽衣子』って呼ぶの、そろそろやめたら?」
「・・・そうだね。あのさ、ちょっと話してもいい?」
「いいよ」
「小学校の初めの遠足までは、私にも友達居たんだよ」
痛みを堪えるように恋が笑う。
「馬場園が我儘放題やりたい放題して、誰が言ったのか忘れたけど、こう言われたんだ。『芽衣子ちゃんに注意しないなら恋ちゃんも芽衣子ちゃんと一緒だよ』って。『一緒っ子』って言われて避けられるようになったんだよ。先生は『みーんなで足を揃えて仲良くしましょう』って感じでさ。馬場園の実家が金持ちだからやりづらかったのかな? 大人の事情はわからないけど、私、あいつが怒られてるところ見たことないんだ。馬鹿にされてるところなら何度もあるけどね。私も、一緒に腫れもの扱いだった」
からん、と恋のアイスティーの氷が鳴る。
「子供ながらに必死に隠していたんだけど、母は、気付いていたんだよね。気付いていて、言わなかったのか、言えなかったのか、わからないけどさ、私は庇ってくれなかった、守ってくれなかった、と思った」
恋は唇を噛み締め、薄く開き、ゆっくりと呼吸した。
「一度だけ、先生達に助けを求めたことがあるの。馬場園は小学校のテストをいつも白紙で出していた。100点を取れない自分に対して苛々して癇癪を起すのと、『一緒っ子』の私と同じ点数を取れないのが腹が立つから。私の家はね、点数の良さでお小遣いの額が決まる家だったんだ。テストの点数が100点なら千円、90点なら九百円って、1点十円単位だった。私は『お小遣いが貰えないから』って馬場園に言って、テストは真面目に受けるよう、ハハ、お許しを貰ってたんだよ。でもあの日、私はテストを白紙で出した。勿論0点」
氷が解けてゆく。
「先生に呼び出されて聞かれた。私は『もう芽衣子に疲れた』って言った。私のテストの点数を不機嫌に聞いてくる馬場園に疲れた。『そのくらいのお金ならめいが出してあげる』って笑顔で言ってくる馬場園に疲れた。100点取っても誰も褒めてくれなくて、千円札を握り締めるだけの自分に疲れたって。先生は私を引っ叩いた。女の先生だったな。先生のファンデーションのにおいを今でも覚えてる。母親を呼び出されて色々言われたよ。母はこう言ったんだ。『問題起こさないで。まるで私の教育が悪いみたいじゃない』って。『貴方のせいで私が『未婚の母だから』って馬鹿にされるのよ』って。あの人が結婚してない理由が、なんとなくわかった瞬間だったよ」
恋はずっと俯いている。僕は恋の睫毛を見つめていた。
「再婚した父に馬場園について話すことなんてできなかったよ。だってそのせいで父と母がぶつかったら、また私のせいだもの。誰も味方が居なかったの。だから、あの雨の日、蓮くんが庇ってくれた時、嬉しくて家に着いてっちゃったってわけ。よーく考えたら馬場園は金だけは持ってるんだから、なにか罠かもしれなかったのにね」
恋は光を眩しがるように、笑った。
「ごめんね、こんな話。聞いてくれてありがとう」
「どういたしまして」
僕はテーブルを撫でた。
「・・・今度、僕の両親の話も聞かせてあげる」
「うん」
「恋、友達とパフェわけて食べたことないでしょ」
「ええっ、無いけど・・・」
「そういうのも取り戻していこうよ。今日は友達として。次は恋人として」
「あ、あの、ずっと前から言いたかったんだけど、私達、急に距離が縮まり過ぎじゃないかな。いや私はね! 私は嬉しいんだけどさ! 急に、その、恋人って、蓮くんはいいのかなって・・・」
「君・・・」
「うん?」
「君、僕と初めて会った日になにを言ってなにをしたか忘れたの?」
「あ・・・。い、いいえ・・・、覚えております・・・」
「帰ったら虐めてやる」
「ひえぇうう・・・」
「なッさけない女だね。パフェ、どれ食べるか決めなよ」
「ええ・・・。あの、じゃあ、抹茶パフェ・・・」
「僕、餡子嫌いなんだよね。君が全部食べてね」
「はい」
店員を呼び、抹茶パフェを頼む。体型維持のために甘いものは控えているが、今日くらいは、恋とデートしている時くらいはいいだろう。
店員がパフェを運んでくる。
「はい、スプーンは使って」
「ありがとう・・・」
僕はホットコーヒーについてきたスプーンでソフトクリームの部分を掬い、口に運ぶ。乳製品独特のコクと甘さ、冷たさが滑らかな舌触りと共に広がる。
「馬場園とはこういうことした?」
「してない。あいつ実はケチなの」
「ええ? 金だけは持ってるんじゃなかったの?」
「うーん、なんていうかな、『めいのものはめいのもの、れーちゃんのものもめいのもの』みたいな・・・。エピソードがいっぱいあり過ぎて・・・」
「全部吐いちゃいなよ」
「駄菓子を買うと『ちょっとちょうだい』って言って一口食べて、『これ美味しいね! めいにちょうだい!』って感じで全部持ってくんだよね。私が一度『ちょうだい』って言ってみたら『これめいのだよっ!』って言ってブチギレんのよ」
「駄菓子って下手すりゃ十円とかでしょ・・・」
「そう。あと缶ジュースかな。私に『買ってきてー』っていつも買いに行かせるんだよね。で、二本買って戻る。一本はすぐに飲み切って『ちょっとちょうだい』って言って八割くらい飲む。馬場園が口を付けたものなんて欲しくないから、そのままあげる。だから夏場は地獄だったな。水筒持ってたら『貧乏臭い。お茶よりジュースの方が美味しいし可愛い』って馬鹿にされたし」
「飲みものに可愛いって概念を適用するんだ。凄いね」
「ファミレスじゃキャンキャン騒ぐから私も諸共出禁だよ」
「ええ、出入り禁止?」
「そう。何件か出入り禁止。でさ、ファミレスのレジの周りって子供向けのおもちゃとか置いてあるでしょ? 私が馬場園の分も会計している間に馬場園が欲しいものを選んで、私が払える金額なら私に買わせる、駄目だったらぶつぶつ文句言いながら自分で買う。で、あとでお説教。『れーちゃんめいのこと好きじゃないの?』って。好きじゃねえよ嫌いだよっていつも心の中で悪態ついてたな」
「ちょっと・・・。恋、君、可哀想が過ぎるよ・・・」
「今にして思えば洗脳されてたんだね、馬場園に。諦めちゃって自分で逃げ道を塞いでいたのもあるけど。でもこんな人生でもお釣りは来たから」
「ばっ、馬ッ鹿じゃないの・・・」
「エヘヘ・・・」
家に帰り、二人共身を清めて、僕は下準備を済ませる。
「ねえ、恋」
「なに?」
「・・・ちゃんとしたキスしよっか」
恋は頷いた。そっと、唇を重ね合わせる。
「ど、どうだった?」
「蓮の顔が近くてドキドキした」
「気持ち良くは・・・」
「あんまり」
「あの、じゃあ、恋の無理のない範囲で、舌、とかも」
「わかった」
唇を啄み合い、舌を絡める。ヤバい。僕はめちゃくちゃ気持ち良い。
「んん、む・・・」
「んー・・・」
柔らかい唇、熱い舌。自分が恋人とキスをしているという事実にくらくらする。
「ふあっ、はあ・・・」
「コツがわかってきたかも」
「い、息できないよっ」
「なんで息止めてるの? ちゃんと吸ったり吐いたりしなよ」
「ど、どこで?」
「どこって、口かな」
「口で・・・ああ、うん・・・口でね・・・」
「もう一回」
「・・・うん」
何度もキスを重ねて恋が満足する頃には、僕は酸欠になっていた。
「キスだけで硬くなってるね」
そう言って口付けを落とす。
「ああっ・・・」
「さっきキスしたみたいにこっちもしてあげる」
柔らかい唇で啄まれ、熱い舌を絡められる。
「き、気持ち、良いっ・・・!」
「まだ出しちゃ駄目」
「ちょ、無理、ひぎっ!?」
根元を指の輪で強く締め付けられる。
「だ、出したいぃ・・・」
「だーめ」
「い、いじわる、しないでぇ・・・」
いやらしい水音が響く。
「ふぎっ!? うぎゅぅうぅう!!」
イッたと同時に仕事用の携帯が鳴る。
「うう、最悪・・・」
僕はなるべく呼吸を落ち着けて通話ボタンを押した。
「はい。櫻田蓮です・・・」
『蓮さん! ビッグニュースです! 次の朝ドラ、蓮さんが主役の弟役に決定ですよ!』
「ああ、そう・・・。それキスシーンないよね?」
『はあ!? キスシーン!? なに言ってんですか、ないに決まってるでしょ!!』
「ああ、うん、じゃあいいよ・・・」
『蓮さん、もしかして具合悪いんですか?』
「僕の恋人の動画、見たよね?」
『あの動画ですか? 見ましたよー! もうー! 蓮さんはなにも悪いことしてないけど、炎上しないかとヒヤッヒヤッでしたよ!』
「今、その恋人と居るんだよね」
『あっ・・・』
「もう切るよ」
『はっはいぃ! 失礼しました!』
電話を切り、脱力感に腕を放る。
「おしまいにする?」
「馬鹿なこと言ってないで、早くいつものところ舐めたらどう?」
「・・・ふうん。じゃあ」
腰を掴んでずるずると引き寄せ、尻の穴を天井に突き出すようにひっくり返される。物凄く恥ずかしい恰好だ。
「うぅ・・・」
恋が舐めている様子がハッキリ見える。
「ぎもぢ、いいぃ・・・」
たっぷりねっとりと舐められると、指で解される。
「おぐっ、おっ・・・も、もう挿れて・・・」
後ろから、にゅぐにゅぐとペニスバンドが挿入される。恋の肌と僕の肌がぶつかる。
「ぎもぢいっ! おおっ! し、子宮に当だっでるぅ!」
「乳首抓るね」
「ま、待って、あああぁああぁあっ!!」
僕は馬鹿馬鹿しい男だ。肩に当たる恋の胸にも興奮している。
「スキャンダルだね、朝ドラの主役の弟役は女に虐められて興奮する変態だなんて」
「さっきの、んっ、電話、あああぁっ、き、聞こえてっ」
「マネージャーさん? 声大きいよ。守秘義務とかあるんだろうからもっと気を付けないと」
「ちゅ、注意しておきますぅ・・・」
れろ、と耳の裏を舐められる。
「ひうっ・・・」
「不思議だね。舐めているだけで気持ち良いよ」
僕が恋を攻めた時は全く気持ち良くなさそうだったのに、今はだらしなく顔を蕩けさせている。
「知ってる? 蓮。射精機能付きのおもちゃもあるんだって。専用ローションは詰まっちゃうからお湯しか駄目らしいけど」
「なっ、うあっ」
「専用つってんのにお湯しか駄目って、企業努力って言葉はどうしたんだよってね」
「ああっ、ああっ」
「蓮も味わってみたいよね」
「あじわって、みたいですぅ・・・」
「蓮が欲しいんだから蓮が頼んでおいてね」
「はい・・・」
馬鹿みたいに善がり狂ったあと。
「恋ってどうしてそんなに身長が高いのかな」
僕は携帯でおもちゃの手配をしながら言う。
「うーん、なんにも特別なことはしてないんだけどな。もしかしたら父親の背が凄く高かった、とかかな?」
「僕はどうしてこんなに小さいんだろ・・・」
「蓮くん、デビューした時『低身長モデル』って宣伝されてたよね」
「そう。全世界の小さい男達の希望の星だよ。キュートもクールもこなす千年に一人の逸材だってね」
「千年に一人かあ、ヘヘ」
「なァに笑ってんのさ」
「キリストがどうのこうのしてからまだ二千年とちょっとだよ。私は世界一どころか宇宙一幸運な女だね」
「・・・馬ッ鹿じゃないの、君」
「勉強は得意じゃないっす」
「僕は君を養殖モノの馬鹿かと思ってたけど、違うね。生粋の馬鹿だ。こんな馬鹿見たことないよ。宇宙の広大さを再確認させられた」
「なんかすみません・・・」
「全く・・・」
僕は寝返りを打って恋に覆い被さる。
「蓮く、」
ちゅ、と僕から口付けた。
「愛してるよ、恋」
僕は魔物だ。
何故だか、もう住良木恋という存在から僕は離れられなくなっていた。そんなことはどうでもいい。緑の黒髪、白い肌、整った顔、スタイルだって良い。僕好みに磨いていい、七色に輝く宝石の原石。ルビーにも、サファイアにも、エメラルドにも、トルマリンにも、ダイアモンドにも、ゾイサイトにも、トルコ石にも姿をかえることができる。有限だからこそ無限だ。
恋のトラウマの馬場園すらも利用してやる。
「いででで」
恋の鎖骨に噛み付き、歯型を付ける。
「あっ! ちょ、ちょっとこんなところに跡なんかつけたら!」
「僕には駄目だよ。仕事に障るから」
「な、なんて我儘なんだクッソー!!」
裸で抱き合い、二人で笑った。
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