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5.白蛇の忠告
「ねぇねぇ、あの人めちゃくちゃイケメンじゃない?」
そう言って美月が二の腕を叩くので、凪は我に返った。そして両手を握ったり開いたりして、自分の意思で身体が動かせるかどうかを確認する。
「本当だ! 芸能人みたい」
今度は美月の隣にいた葵からも驚嘆の声が漏れた。その視線の先を辿ると、やはりそこには白い大蛇が居る。
スーパーマーケットという人間の食糧がただただ陳列しているだけの空間に、大蛇が存在するという違和感は実にシュールである。
(この大蛇って、普通の人には人間に見えてるの? だとしたらもしかして……)
「その人って、色素が薄くて清潔そうなイケメン?」
それは、多聞がLINEで忌一に伝えていた情報だった。そもそも忌一の想い人が、そのような男性と本当に交際しているのかを確かめたくて、目撃情報のあったこのスーパーまで来たようなものなのだ。
凪の質問に対して二人は、「そう。あそこにいるでしょ」と言って同時に指を差した。しかし彼女らの差し示すものは、凪にとって大蛇にしか映らない。
(これが忌一さんと多聞さんの言う『白井』って人だとすると……)
大蛇の隣で、キョトンとした表情でこちらを見つめる女性と目が合う。
(あの人が、忌一さんの想い人……)
歳は二十代前半だろうか。特別目を惹く美人というわけではなかったが、ショートカットのよく似合う可愛いらしい女性ではあった。性格は話してみないとわからないが、明らかに常人と違う点があるとすれば、それは一緒に居るのが白い大蛇なことだけだ。
何故白い大蛇といるのか。そもそも一緒にいるのが大蛇だと知っているのか。何故この大蛇は、芸能人並みのイケメン姿に化けているのか……訊きたいことは山ほどあるが、どこから訊けばいいのかわからない。そもそも初対面なのだから、まずは自己紹介をするべきか、それをするなら何故自分がここに居るのかも……
「彼女に何か用?」
いつの間にか白い大蛇が一歩前まで近づいていて、紅い瞳でこちらを凝視していた。そばに居たはずの美月と葵は、彼のイケメンオーラに耐えられなかったのか、少し離れたところで口元を隠しながら遠巻きにこちらを見守っている。大蛇と一緒に居た女性はというと、そのままの場所でじっとこちらの様子を窺っていた。
大蛇は連れの女性の方を振り向いて、そちらに向かって二股に裂けた舌をチロチロと出していた。おそらく他人の目には、イケメンが彼女の方を指差しているように見えるのだろう。
しかしこちらは蛇を至近距離で見たことが無い上に、こんなに大きな蛇がこんな間近に存在するというこの状況に、油断をすればすぐにでも意識が遠のきそうで、気丈に意識を保とうとすることしか出来なかった。
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