47人が本棚に入れています
本棚に追加
「もしかして君、僕の本当の姿が視えてる?」
異常な緊張を察したのか、それとも視える人間に何か共通する特徴でもあるのか、大蛇は突然質問を変えた。その時、何故か店内の喧騒が全く聞こえなくなり、大蛇の紅い瞳が鋭く輝き出す。全身が冷凍したかのように硬直し、全ての景色がモノクロに見えた。まるで自分と大蛇以外の時間が止まってしまったかのように。
広いスーパーの中で、大蛇と自分の二人だけしか居ないような感覚に陥り、その場を取り繕うような嘘は絶対につけない気がした。何も口にせず、やっとのことで首だけを縦に振る。
「参ったな。それじゃあ、君の記憶を消すしかないじゃないか」
「そ……それは困ります!」
勇気を出してそれだけを言うと、大蛇は紅い瞳を大きくして、「何故?」と訊き返す。
「か、確認しに来たんです。あなた達が本当に……お付き合いをしているのかどうか」
すると大蛇は、さらに近づいて真上から見下ろしながら、
「それを知ってどうする? 君に何の関係が?」
と、訊ねた。
自分のすぐ目の前で、真っ赤な二股の舌がチロチロとこちらを値踏みするかのように動いている。硬そうな白い鱗が、手を伸ばせば触れそうな距離にあった。
きっとこの大きさの蛇であれば自分など、この大きな口で頭から丸飲みに出来るに違いない。
(怖い……)
もともと爬虫類は苦手だったが、こんなに大きな蛇は見たことがない。いや、普通の人間ならこんな存在にお目にかかることは一生ないだろう。自分の眼が普通の人には見えないものを視れてしまうが故に、今まで幾度となくこのような危険な目に遭ってきた。
そんな時、いつもの自分ならすぐに逃げ出していた。先日は異世界にまで連れていかれ、助けを求める電話が奇跡的に忌一と繋がったために、辛うじて命からがらこの元の世界へ戻って来られたくらいだ。
(忌一さんがいなかったら……)
今の私はいない、そう思うと全身に勇気がみなぎってくる。彼のためにも自分自身のためにも、今は逃げるわけにはいかなかった。
「好きな人が悲しむのを、見たくないので」
やっとのことでそこまでをハッキリ言うと、大蛇の紅い瞳がさらにこれでもかと見開かれる。
「もしかして君の好きな人とは……松原忌一のことか?」
緊張で喉が貼り付いて、思うように喋れなかった。しかしやっとのことでコクリとだけ頷くと、次の瞬間、全身に重くのしかかっていた硬直が解け、身体が自由になった。どうやらこの大蛇から、金縛りの術のようなものがかけられていたようだ。
最初のコメントを投稿しよう!