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しかし周囲を見回すと景色はまだ色を失ったままで、スーパーの店内は物音ひとつしない静寂のままだ。葵や美月、大蛇と一緒にいた女性を見ても、やはり微動だにしていない。この空間は未だに、大蛇と凪の二人だけの空間だった。
「私は、白水神社が祀る水神の眷属である。人の姿では、“白井みづち”と名乗っている。君の名は?」
(神社の眷属……ってことは、怖い異形じゃなくてむしろ神様に近い?)
眷属というものがよくわからなかったが、おそらく神社にある狛犬のようなものだろうと把握する。そう思えたのは、今までお参りしたことのある神社の境内で、狛犬やお稲荷様が動いているのを何度か目撃していたからだった。この白い大蛇も、それと同じ類なのかもしれない。
恐れる必要がないとわかると、凪の警戒心からくる余分な力もスッと抜けた。先程までは丸飲みにされるかもしれないという恐怖がつきまとったが、神に仕える存在がそのようなことをするわけがない。
「私は高橋凪といいます。忌一さんとは縁あって、お知り合いになりました」
「そのようだな。君の眼は、彼のものとよく似ている」
「はい」
その共通点が彼への想いを強くしたと言っても過言ではなかった。何故なら唯一この眼の苦労を知り得るのが、今のところ互いの存在しかないからだ。
「だが凪よ。君は松原忌一と関わらない方が良い」
(え……)
突然のことで思考が停止する。何故神の眷属に、このような忠告を受けなければならないのか。
「それは……なぜでしょうか?」
「君も薄々は気づいているだろう? あれの眼と君の眼は、似て非なるものだ。あれは災いを呼ぶ」
(災い!?)
忌一に限らず、自分独りでも幾度となく危ない目には遭ってきた。それが忌一自身にも起こっているのだとしたら、一緒にいれば危険性は二倍となり、それが“災いを呼ぶ”ということであるなら確かにその通りなのだろう。
だが忌一と出会ってから、その災いが無事解決していることも確かだ。
「忌一さんが呼ぶ災いって……」
「“異形”だ。その中でも特に恐ろしい、君ら人間が『鬼』と呼ぶものだ。君にも身に覚えがあるのではないか?」
(鬼!?)
全身にゾクリと鳥肌が駆け抜けた。いくつか異形と呼ばれるものは視たことがあったが、鬼はまだこの眼で見たことがない。
「実際彼女はあれのせいで、先日鬼に襲われかけている。だから私は人の姿を借り、そばで彼女を守っているのだ。彼女には昔、助けられた恩があるからな」
そう言って大蛇は、後方で時を止めている忌一の想い人を見つめていた。その眼は、先ほど自分に向けられていたものとは全く逆の、とても愛おしいものを見守るような優しい眼差しだ。
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